「……ナツ」

 旬が不意に声を出した。


「……何?」

 心臓が飛び出るんじゃないかというほど驚いてしまったが、奈津美は何もないように返事をした。


 しかし、旬はすぐには何も言わず、まず箸を置いた。


 何を言われるのか、ドキドキしながら奈津美は旬の次の言葉を待つ。


 旬は、体ごと奈津美の方に真っ直ぐ向き、崩していた足をピシッと正座に変えた。


「ナツ……」

 もう一度奈津美の名前を呼ぶと、旬は両手を床につけた。


「ごめん!」

 と、旬は勢いよく頭を下げた。


「え……?」

 奈津美は、唖然として、何の言葉も出てこなかった。


 この状況で土下座で謝られるなんて、思ってもいなかった。

 しかも何の『ごめん』なのか分からない。


「俺……色々ナツに悪いことしちゃって……それに、相変わらずナツに頼ってばっかだから、ナツが怒っても仕方ないと思うよ」

 頭を下げたまま、旬は言った。


 何のことか、奈津美にはさっぱりだ。


「でもっ……これからはマジでしないから……しっかりするって誓うから……だから許して! この通り!」

 旬はもう下げようのない頭を、床にこすりつけるようにした。


 奈津美は、何も言えなかった。驚きすぎて、言葉が出てこない。


 そして旬は、土下座をしたまま固まったように動かない。


「……旬?」

 奈津美は恐る恐る声をかけた。旬の肩がピクリと動いた。


「あの……何言ってるかよく分からないんだけど……でも」


 旬は、内心ビクビクしながら奈津美の声を聞いた。


「あたし、怒ってないよ?」


 奈津美が言った後、しんと静かになった。