旬が悶々としているところへ、奈津美が戻ってきた。


 点いたままのテレビを見て、あ、消してない、と思った。

 テレビの中では、依然さっきのカップルが言い争いを続けている。



『ていうか、あんた他にも女いるんでしょ!』


 その言葉にドキッとして、奈津美は立ち止まってしまう。


『たまに帰って来ない時、他の女のとこにでもいるんでしょ!』


『……居ねえよ。何言ってんだよ』

 否定する男は、明らかに動揺の色を見せていた。


『あたしが気付いてないとでも思ってんの!? 他の女からメールとか入ってんの、知ってるんだからね!』


『何勝手に俺の携帯見てんだよ! つうかただの女友達だって!』


『何でただの女友達からのメールが『次はホテルでしようね』って内容なのよ!』


『はぁ!? 有り得ねえ! 何でそこまで見てんだよ! お前、最悪だな!』


『最悪なのはそっちでしょ! 逆ギレしないでよ!』


『ああ分かったよ。別れてやるよ! それでいいんだろ! こっちだって別にお前じゃなくたっていいんだからな!』



 別に奈津美に言われたわけではないのに、その言葉が、ぐっさり胸に刺さった。


 もしかしたら、旬もそんな風に思ってる?

 あたしじゃなくてもって、思ってる……?


 奈津美は、旬のことを見た。


 旬はテレビに見入っているのか、動かない。