「……旬?」

 奈津美は不安になりながら声をかける。


 もしかしたら、まだ昨夜のことを気にしてるのではないか。

 いや、気にしていて当たり前と言えるのだが。


「……ナツ。あのさ……」

 ややあって、旬から言葉が返ってくる。


「……何?」

 何を言われるのか、奈津美の胸はドキドキしている。


「今から、ナツんち行っていい? つうかもうすぐそこまで来てるんだけど」


「……えっ!?」

 一瞬間を開けて、奈津美は大きな声を出してしまった。思い切り素だった。


「ダメ……?」

 旬はこちらを伺うように聞いてくる。


 ここで、今からはちょっと……などと言えるだろうか。


 明日は日曜日だし、特に断れる理由はない。


「ううん。いいよ」

 奈津美は明るく、平静を装って言った。


「今どの辺り? あとどれぐらいで着くの?」


「もうコーポが見えるとこ。五分かかんないかな」


「そう。分かった。じゃあ待ってるね」


「うん。後でな」


 電話を切ると、奈津美は慌ただしく部屋を片付ける。


 片付けると言っても、ストレッチや筋トレをするスペースを作るために動かしたローテーブルを元に戻したり、雑誌を目立たないところに置いたりするぐらいだ。


 キョロキョロと部屋を見回して他にしておくことがないか確認していると、チャイムが鳴った。


「早っ……」

 予想以上の早さに、奈津美は思わず声に出して呟いた。

 五分どころか、三分も経っていない。


 奈津美はバタバタとしながら玄関に行く。

 念のためドアスコープを覗いてみると、そこに旬がいたので、奈津美はドアチェーンを外し、鍵を開け、ドアを開けた。