「じゃあね。色々楽しかったわ」

 居酒屋を出て、カオルを駅まで送った別れ際にカオルは笑顔で言った。


「色々って何よ」

 気になる発言に奈津美は反応する。


「色々は色々。ね、旬君」


「はい」

 カオルと旬はまた顔を見合わせる。


「じゃあ、頑張ってね。二人とも。またねー」

 カオルは笑顔でそう言って、手を振って駅の方に向かった。

 奈津美と旬はそれをカオルが見えなくなるまで見送った。


「俺らも帰ろっか。今日は俺んち来る?」

 旬が笑顔で奈津美に尋ねる。


 何も言わず、奈津美はじっと旬を見上げた。


「ナツ?」

 旬は首を傾げる。


「カオルと何話してたの?」

 問い詰めるような少し強い口調で奈津美は言った。


「へ?」

 旬はきょとんとしている。


「何かあたしのことで変な話してたんでしょ」


「ああ。別にしてないよ。変な話なんか」

 旬は笑いながら首を横に振った。


「じゃあ何の話してたのよ」


「それは内緒。恥ずかしいから」


「恥ずかしいって……」


「もういいじゃん! 気にすることじゃないしさ」

 旬はそう言って、奈津美の手を引いて歩き始めた。


「もう……わけ分かんない」

 奈津美は口を尖らせて呟いた。


 そんな様子も、旬には愛おしく映っていた。


 これからもずっと、奈津美のことを大事にしていきたいと、そう思った。


「マジで頑張んないとなー……」

 旬は小さく、独り言のように言った。


「え? 何?」

 はっきりと聞き取れず、奈津美は聞き返した。


 旬は、奈津美に向かって、ニッと笑った。


「今夜は頑張んないとなって。ベッドの中で」

 悪戯っぽく旬は言った。


 旬が何を言っているのかは、奈津美にも伝わった。


「なっ……何言ってんのよ!」

 奈津美は真っ赤になって旬に言った。



 奈津美が、旬が本当に言ったことの意味が分かるのは、もう少し先の話になる。