「あたし、ちょっとお手洗い行ってくる」

 奈津美がそう言って席を立った。


「あ、店の方のトイレ、今修理中なんだ。だから、奥の従業員用のトイレまで行かないと……」

 旬が思い出したように奈津美に言った。


「そうなの?」


「うん。あ、亜紀さん」

 丁度テーブルにお好み焼きを持ってきた亜紀に、旬は声をかけた。


「何? 沖田君」

 テーブルに皿を置きながら亜紀は返事をする。


「彼女、トイレの場所まで案内してくれませんか?」


「ああ。うん。わかりました」


「すみません……」


「いいえ。こちらこそすみません。ちょっと遠いんですけど……こっちです」


 奈津美は亜紀の後ろについて、その場を離れようとする。と、足を止め、旬とカオルの方に向いた。


「二人とも。あたしがいない間に変な話しないでよ!」

 釘を刺すように奈津美は強い口調で言った。


「何よぉ、変な話って。そんなのするわけないでしょ。ねー、旬君」


「はい。カオルさん」


「……絶っ対によ!」

 笑顔の二人に一抹の不安を覚えながら、最後に更に強調してから、奈津美は離れていった。



「さて、と……旬君」

 奈津美が見えなくなると、カオルはテーブルに肘をついて旬の方を見る。


「はい?」

 旬はお好み焼きを口に運びながら返事をする。


 カオルは旬に向かってニコッと微笑んだ。


「やっと二人きりになれたわね」


「ゴフッ…!」

 旬は思わずむせ返った。喉の奥のほうにつまったらしく、喉の下を叩き、ウーロン茶で飲み下した。