「じゃあちょっと待っててね。お昼作るから」
奈津美が台所へ行こう立ち上がった。
「ナツ……」
離れようとした奈津美を旬が止めた。
布団から手を出して、さっきのようにまた手を掴む。
「ナツ……ごめんな……今日、デートだったのに……」
旬のその言葉を聞いて、奈津美はそうだったことを思い出した。
本当なら今頃、ケーキバイキングに行っているはずだった。
「いいよ。また今度行けばいいんだし。そのために今日はちゃんと大人しくして治してね」
奈津美はそう言って旬の頭を撫でた。
「うん……ナツ……」
「何?」
「チューして」
「……えっ……」
予想外の言葉に奈津美は固まる。
どうしてこんな時にまで……いや、部屋にきた奈津美を押し倒したぐらいだ。こんな時だからこそなのか。
「大人しくしてるから……チューして?」
旬は潤んだ目で言う。
その目を見て、奈津美は不覚にもときめいてしまう。
「……だめよ。旬の風邪うつったら困るもん」
何とか流されそうになるのを奈津美は誤魔化す。
「……チュー……」
旬はまだ物欲しそうに奈津美のことを見る。
奈津美は溜め息をついた。
「分かった……旬。目、つぶって」
しょうがない……という口調で奈津美は旬に言った。
「うん!」
旬はニッと笑って言われた通りに目を瞑る。
奈津美は、ベッドの端に片膝を乗せ、旬を上から覗き込むように見下ろす。
旬は、目を瞑っていても、瞼の裏が暗くなったことでそれを感じ、今か今かと奈津美の唇を待っている。
旬の顔に近付き、奈津美は素早く唇を押し付けた。


