「なになに? ナツ、いつも俺の話してるの?」

 旬が嬉しそうに奈津美の顔を覗きこむ。


「べ……別にしてないわよ! ていうか、離して! 暑苦しいでしょ!」

 奈津美は旬の腕を無理矢理振りほどこうとした。


「照れちゃって」

 カオルがまた笑いながら言った。


「照れちゃって〜。ナツってば可愛い〜」

 旬も同じように言い、更に強く抱き締めた。


「ちょっと! 二人とも……」


 初めて会ったはずなのに、二人の性格のせいなのか、旬とカオルは一緒になって奈津美をからかう。

 奈津美の方が押され気味だった。


「じゃ、二人の邪魔しちゃ悪いし、あたしは帰るわね」

 笑顔のままカオルが言い、二人から一歩離れる。


「えっ……帰るの?」

 奈津美は目を丸くしてカオルを引き止めた。


「あたしだってそんな野暮じゃないわよ。折角会えたんだから二人で過ごしたらいいじゃない」


「でも……」


 そんなやりとりをする奈津美とカオルを、旬は交互に見る。


「……もしかして、二人でどっか行く予定だった?」

 旬は控えめに奈津美に尋ねる。


「え……あ、まあ……」

 奈津美は小さく頷く。


「いいのよ。あたしはまた今度で」


「いや、でも……カオルさんの方が先約だったんだし……」

 言い合う二人を前に、奈津美は立場的に口を出しづらい。


 彼氏を取るか、友達を取るか……

 恐らく、どっちを取っても二人とも何も言わないだろうけど、だからこそ奈津美には選べない。