「そう言えば奈津美」

 エレベーターを待っている間、カオルが思い出したように口を開いた。


「彼氏君とはどうなの? 先行き不安みたいなこと言ってたけど」


「……んー」

 カオルの問いに、奈津美は首を傾げる。


「どうだろ……まあ、相変わらずっていったらそうだけど……」


 エレベーターが到着し、奈津美とカオルは乗り込んだ。丁度、その中は二人だけだった。


「でも、何となくだけど、旬ってあんまり本気で結婚のこと考えてないんじゃないかなーって思うの。結婚結婚って言うけど、それは付き合ってる時の常套句っていうか」


「あー……なるほどねー」


「だから、あたしだけ現実的に考えたってしょうがないし……それに、やっぱり旬はまだ十九なんだし。今は何とも言えないかなーって。なるようにしかならないしね」


「確かにそうかもねー」

 カオルは深く頷いた。


「それに、あんまり結婚だの将来だの考えてたら気が滅入るだけだしね。今からそんなこと考えなくても問題はないわけだし」


「何? 珍しくポジティブじゃない」


 エレベーターが一階に着き、ドアが開く。


「どういう意味?」

 先に降りるカオルの背中に奈津美は言った。


「奈津美って、いっつも否定的っていうか、ネガティブ思考だから」


「そ……そんなことないから! ……あ」

 言い返すと同時に、鞄の中の携帯電話が振動しているのに気付き、奈津美は携帯を取り出す。


 携帯を開いて見てみると、メールが来ていた。操作をし、受信メールの画面にする。


 旬からだ。


 送信者の名前は、旬だった。今からバイトのはずなのに、何かと思い、メールを開いた。


『バイトなくなった!

今日はナツんち行けるよ!

今、ナツの会社の前にいるから一緒に帰ろ♪」


「……え!?」

 メールを読んで、奈津美は思わず声をあげた。


「何? どうしたの?」

 カオルが不思議そうにきいてくる。


「旬が来てるって……」