「…ねえ、旬」


「何?」

 旬が笑顔で奈津美の方を向いた。


「旬は……十年後の自分はどうなってると思う?」


「ん? 何それ」

 奈津美の問いかけに、旬は首を傾げている。

 やはり、唐突過ぎた質問だ。いくら旬でも、おかしいと思うに決まってる。


「えっと……その、心理テスト! 今日、友達に聞いたの」

 奈津美は苦し紛れにそう言った。


「ふーん?」


「それで、旬はどうなってると思う?」


「んー……そうだなあ」

 少し考える素振りを見せてから旬は口を開いた。


「十年も経ってるんだったら、とりあえず結婚しててー、子供もいるんだろうなぁ。俺とナツの子供だったら絶対可愛いよな。男でも女でも」

 旬は想像の中なのに、とても嬉しそうに話す。


 そして、やっぱりその話も言わずもがな奈津美と結婚することは大前提で、今度は子供ができることも決まっているようだ。


 質問することを間違えたかなと奈津美は思った。


 奈津美が聞きたかったのは、そういうことじゃなかった。

 仕事はどうしているのかとか、旬自身のことを聞きたかったのだ。


 もしかして、旬は本当に仕事のこととか、何も考えてないのかな……

 そう不安にもなってしまう。


 奈津美の思っていることをよそに、旬は更に話を続ける。


「でもさ、何にしても、ナツと一緒に居て、幸せになってることは確かかな」

 その言葉に、奈津美は今一度旬の方を向いた。すると、旬も奈津美の方を見て、にっこりと微笑んだ。


 旬のその顔を見て、分かったことがある。


 旬が見つめる先には、奈津美と一緒の未来がある。


 結婚がどうとか、口にしてはいるけれど、それは形だけのことであって、旬には関係ないことのように思える。


 奈津美さえ居れば十分だ。旬の顔がそう言っていた。