「それで、何で旬がここにいるの?」


「バイトの帰り! ……ていうか、四時半ぐらいに終わったからさ、丁度ナツと一緒になれるかなーって思って待ってたんだ。そしたら、ナツ、俺に気付かないでいつもと反対に行っちゃうから焦ったー」


「え……それならメールとかしてよ!」


「だって驚かせたかったからさ?」

 そう言って、旬はおどけた表情を見せた。


「もし残業とかだったらどうしてたのよ」


「それはそん時にメールしようと思って」


「……もう」


 本当に、旬は奈津美を呆れさせることばかりする。きっと今日だって、平気で何時間も待ち続けていただろう。


「それより、ナツはこれからどっか行くつもりだったの?」


「あ、うん。鍵屋に行こうと思って……合鍵つくりに」


「え……それって俺の?」


「うん」

 旬の顔がぱあっと明るくなった。


「俺も行く! 早く行こ!」

 急に張り切りだして、旬は奈津美の手を引いて歩き出した。


 奈津美は嬉しそうな旬の横顔を見上げた。タイミングよく現れた旬を見て、思考はさっきまでのものに戻る。


 ……旬は、どう思っているのだろう。口では結婚のことを言ったりするが、どれぐらい本気で、どれぐらい現実的に考えているのだろう。


 奈津美には見えない先のことが、旬には見えているというのだろうか。