「奈津美は彼氏君とそういう話しないの?」

 今度は奈津美が聞いたことを聞き返された。


「しないっていうか……むしろその逆っていうか……」

 奈津美は小さな声で答える。


「してるの? それならいいじゃない」


「そうじゃなくて……そういうんじゃなくて……結婚のことって言っても旬との場合……リアリティーがないっていうか」


「リアリティー? どういうの?」


「結婚したらこうしようとか……どうしたいとか……そういうのを具体的に言ったするの」


「いいじゃない。それぐらい」


「ことあるごとに言うのよ? 結婚したら結婚したらって」

 あっさりとしたカオルの反応に、奈津美は強調するように言い足す。


「それだけ本気で奈津美のことを好きだってことでしょ。それに普通じゃない? 結婚に対してのそういう願望って、意外と男の方があるもんよ?」

 やっぱりカオルはあっさりとした態度で言い返す。


「……じゃあ、カオルも塚田さんとするの? 結婚式は神前式か教会式かとか、引き出物は何にしようかとか」

 奈津美は実際に旬が言っていたことを例にして聞いた。


「そういうのはないけど……ていうか、あたしらがそんな話したって現実的すぎて楽しく話せないでしょ」


「ほら。やっぱり」


「あ、でも結婚したら一戸建てに住みたいって言ってたことはあったけど。それであたしが冗談半分で、それなら○○(高級住宅街)がいいって言ったら、頑張るよって笑いながら言ってたな」


 カオルの半分惚気が入った話に、奈津美は黙ってしまう。


「……カオルだって……それならいいじゃない。塚田さんならそれぐらい本気で買えそうだし。……旬は、そうじゃないもん」

 奈津美は独り言のように呟いて下を向いた。