ひとしきり奈津美のことを堪能すると、旬はこてんと眠ってしまった。

 奈津美は、その旬の寝顔を見る。


 旬は、満足そうに、気持ちよさそうに眠っている。それを見ているだけで、奈津美も自然と笑みを溢す。


 しかし、胸の中を掠めたことが、奈津美の表情を変える。


 それは、結婚のこと。


 思えば、旬は今までも結婚という言葉を口にしていた気がする。


 例えば、奈津美の料理を食べて美味しいと言いながら、


「結婚したら毎日ナツの作ったもん食えるんだなー。すっげー楽しみ!」

 と、笑顔で言い、なかなか会えない日が続いたりすると、


「結婚したらこういうこともないのになー」

 と、電話の向こうで嘆く。


 奈津美は、それに対して、恥ずかしいような感覚で、適当に聞き流すか誤魔化すかしてきた。

 これもまた、付き合ったらするお約束の話だと、深く考えてなかったのだ。


 しかし、今日はやたらと反応してしまった。結婚式に行って、意識し始めたからだ。

 今思うと、大事なことを考えてなかったような気がする。


『結婚したら』


 そう仮定形で旬は言うけれど、旬の頭の中ではすでに奈津美と結婚することが決まっているようだ。そして、それは着々と発展している。


「んー……」

 旬が小さく唸り、手探りで奈津美の背中に手を回し、抱き寄せた。

 寝ている間の無意識な行動らしく、すぐにまた一定のリズムの寝息が聞こえる。


 奈津美はそんな旬の胸に額をつけ、目を閉じる。


 自分のことを何よりも大事にしてくれる旬のことを、奈津美は、きっと旬が思っている以上に好きで、こうして抱き締めてくれる旬の腕の中は、どんな場所より心地いい。


 できればずっと旬といたい。ずっとこうしていたい。



 でも、結婚は、それだけじゃできないんだよ……


 それが現実だと、奈津美には分かっていた。