あたしの恋は、突然だった。
あたしの失恋も、突然だった。
初めての恋で、ものすごく嬉しかったけど…。
でも本当は、ずっとずっと恋したかった。

「え~っ!?みおういつの間に社会得意になってたのぉ~っ!?…みおうが社会で86点取ったの初めて見た…。」
「いや、言いすぎじゃない?さっすが琴音。グサッとくるわ~。」
矢のような言葉を飛ばすあたしは、二瓶琴音。
つい最近高校一年になって中学から一緒のみおうと同じ学校に通ってる。ちなみにクラスも一緒で1年2組。
今は第一回中間テスト返し。あたしは姉の丁寧な教えでテストは90点や80点などの平均点。みおうも平均点は余裕でとるけど、社会だけは苦手。
「…これは、琴音のおかげだね。ありがと、琴音っ。」
みおうが喜んでくれるなら、何でもしたいな…。
「にしても、まじでお前90点台だよな、何でもかんでも。」
「そっ、そんなことはないよ。快君はどうだったのっ?」
「おいっ、取んなよ琴音っ」
あたしの席の隣は榎本快。快君は、あたしの初恋の人。だって顔立ちいいし、しかもツンデレだよっ!好きにならないわけがないっ。…でも。
…快君は、あたしと隣で嬉しいのかな…?
「どうだ?琴音と同じ96点。今回頑張ったからなっ。」
「…うん。あたしと同じ。」
素直に嬉しいよ。
この恋を知ってるのはみおうと双子の姉の琴葉だけ。
二人には応援されてるから、この恋は絶対諦めたくない。

「失礼します、1年2組、二瓶琴音です。用事があって1年1組に来ました。」
「おす、琴音。待ってたぞ。」
「まさか、琴音から来てくれたなんて…。そんなに社会でいい点数取ったの?見せて見せてっ。」
右に立っているのは櫻井拓。あたしの幼なじみで快君と仲良し。何でもできて、勝ち目がない人。
で、左に立っているのはあたしの双子の姉・琴葉。彼女も何でもできる人。何かが欠けてるあたしにとっては「あたしの姉だなぁ」と思う。
「ねぇ見て見てっ!社会96点取ったよっ!」
「わぁ、すごいっ。でもごめんね琴音。私100点なんだ。」
マジかっ!何でもできる姉とは分かっていたけど、この前返ってきた数学も社会も100点を取るなんて…っ!
「やっぱりすごいなぁ。琴葉は。」
「でも、琴音も頑張ったじゃない。さすが私の妹って思ってるよ。」
「…琴葉…っ。」
こういう対応も姉らしい対応で、うらやましいっ。
「あのぉ~…。俺のこと忘れてない?二人の世界に入んないでくれ。」
「ごめんっ、忘れてたっ。」
「あたしも忘れてたっ!」
「おいおい…、忘れんなよ…。でな、俺の点数は97点。琴音に1点差で俺の勝ち。」
「ウソっ!」
拓に負けたの…っ!?絶対勝つと思ってたんだけどな~…。
「まぁまぁ、テストはあと3つあるんだから、そう悲しまないの。」
「…琴葉はそういう事考えなくていいよね。」
「考えなくていいって…。私だって考えてるよ?ところで、昼休みは用事があるって言ってたけど、大丈夫なの?」
…用事?何かあったっけ。確か…快君と…。
「あぁっ!!委員会があるの忘れてた~っ!!しっ、失礼しましたぁっ!!」
「気を付けるんだぞ~っ。」
も~~っ!なんであたし、忘れちゃうのかなぁ~~っ! 

ガラガラッ!!
「すみませんっ!!遅れましたぁっ!!…あれ?みんなは?」
生活委員会の場所の2年1組は、誰もいなかった。
…もしかして、あたしがいなかったから、なしになったのかな?…それとも、探してるのかな?どっちにしろ、先生に起こられるパターンだ。…どうしよう…っ。
「琴音。」
聞き覚えのある声だった。
「…快君…っ。」
「いやぁ、もう大変だったよ。琴音が来てなくて大騒ぎ。俺もちょっと困ったよ。」
「じ、じゃあ謝らないとっ。」
「大丈夫。俺がウソついて保健室に行ったって言っといたから。心配しないで。」
快君に、助けられた…。
そういう風に優しく助けるところが本当に大好きっ。
「ありがとう、快君。」
「っ!……。」
照れるところも好きで好きでたまらない。
「それで、昼休みに集まったのは、来週ロッカー点検があるからよろしくって言われたんだ。時間は放課後、つまり、みんなが部活に行ってるときだ。」
放課後…。部活に行ってるとき…。つまりっ、それって…っ!
二人っきりじゃんっ!
「ままっ、待って。…2組の生活委員って、あたしと快君だけだよね…?」
「ん?あぁ。そうだな。」
そんなスラッと言っちゃう~っ!?
ヤッ、ヤバい…。急に緊張してきた…っ。
「じゃあ、とりあえず話は終わりだ。何かわかんない事があったら俺に聞けよ?」
…快君は、意識とかしてないのかな…?してるの、あたしだけ?
「かっ、快君…。」
「…ん?」
「そっ、そのぉ…。…照れないの?」
何聞いてるのぉ~っ!?あたし~っ!?
「……そんなこと考えたら、俺変態じゃん…。」
意識、してる…っ。
「大丈夫だよっ。あたし、いっ、意識されてる方が、嬉しい…。かっ、快君に…。」
あたしも…変態だ…っ。
「…まじで?…じゃあ、意識する。」
「えっ。」
もっ、もうダメっ。限界に近い…っ!
「…っそれより、俺に聞けよ?…俺に聞きにくい事があったら美寿でもいいし。」
…神谷、美寿さん…。
彼女は学校一の美女。悪女ってわけじゃないけど、言葉がきついというか…。あたしは彼女のことが好きではない。
「神谷さん、クラス違うから、あたし聞けるかなぁ…?」
「大丈夫っしょ。女子は琴音と美寿しかいないからな。」
本当に、神谷さんと話せるのだろうか。嫌がられたり、しないだろうか。心配で仕方がない。
「美寿、いい子だぞ?」
快君と神谷さんは、どういう関係なのだろうか。
神谷さんのこと、「美寿」って言わないでよ…っ。
そのあとの話は、あまりよく聞いていなかった。

「はぁ…。」
今日初めての、大きなため息。
別に放課後の部活が嫌ってわけじゃない。中学からやってるバレー部は楽しい。…けど。
「琴音っ!部員の人に会ったら挨拶って言ってるでしょっ?」
神谷さんも、バレー部なの…。
「ごっ、ごめんね。ちょっと考え事してて…。」
「考え事って言っても、どうせバレー以外のこと考えてるんでしょっ?…なんでフラフラしてる琴音が来週の大会のスタメンなわけ?ほんっと、先輩の考えてることがわかんないっ。」
確かにそうだ。あたしは神谷さんよりバレーは下手だ。もちろん、琴葉よりもだ。なのになんであたしがスタメンなのだろうか…。
「とにかく、挨拶ちゃんとやってっ。次挨拶しなかったらマジ怒るよっ?」
「…はいっ。」
神谷さんとは、委員会も部活も一緒。嫌なんて言いたくないけど、嫌になっちゃう…。
「あっ!美寿っ、こんにちはっ。私のバレー用の靴知らない?朝はあったんだけど…。」
「琴葉、こんにちは。琴葉のやつ?美寿知らないよ?美寿も探してみるっ。」
「ありがとうっ。」
…琴葉は、神谷さんと友達なんだよね…。あたしと違ってすぐ新しい友達ができるし。
「……。」
あたし、こんなに弱い人間だったんだ…。
 
「ありがとうございましたっ!」
部員に向かって挨拶、体育館に向かって挨拶。これがバレー部の決まり。
みおうの入っている女子バスケ部は、部員全員が並んで挨拶だけど、バレー部は「そんなことしたくない」と誰かが言ったらしく、やっていない。
「おすっ、琴音っ。」
「たっ、拓っ!…今日男子バスケ終わるの早いね。何かあったの?」
「顧問の白石が出張で一時間早く終わったの。快も終わってるはずなんだけど…。どこ行ったか帰ってこないし。」
そういえば今日白石先生出張だった…。だから今日外で活動してたのかな?でも、女子バスケ顧問の蒼先生がいるんだから合同にすればいいのに…。
「拓っ。ごめん、遅れて。ちょっと体育の先生に捕まってさぁ…、って琴音っ?バレー部、終わったの?」
「うん。これから琴葉と神谷さんとか来ると思うよ。みおうはどうかわからないけど。」
「そっか。じゃあ今日は美寿と帰れるってことか。」
…また、神谷さん…。
「おっ、琴葉っ、神谷と詩音。今日一緒に帰らないかって快が言ってるけど、どうする?」
「私はなんでもいいよ。」
「みおうは今日美寿と帰る予定だったから、別に大丈夫だよ。美寿、大丈夫?」
「美寿もそう思ってたから、安心して。」
「じゃあ、私も一緒に帰ろうかな?」
…みおうと琴葉だけならまだいいけど、神谷さんも入るとな…。
「ごめん、あたし帰るよ。欲しかった本が今日発売なんだっ。だから帰るね。」
……。ウソついてまで、一緒に帰りたくないなんて。…まるであたしじゃないみたい。
夕焼けの色が、素直にキレイ。たった一色でできた夕焼けの色なのに、キレイに見えるのはなぜだろうか。
「…陸上部、頑張ってるな。」
あの色に吸い込まれそうなのに、簡単に吸い込まれないのは不思議…。
「……。」
「琴音っ!」
っ。…なんで?快君が…?
「…みんなと、一緒に帰るんじゃなかったの?もしかして、「また明日」って言いに来たの?…何か言ってよ…っ!」
「お前はバカかっ!」
…えっ…。バカって、言われたくはなかった。しかも、好きな人に…っ。
「あのなぁ、聞いてなかったのかっ?先生の話っ!」
「…へっ?いっ、いつの…?」
「いつのって…。今日だよっ今日っ!「最近この学校の近くに不審者が相継いでいます。」って言ってただろっ?」
…そうだった。「帰りは数人で帰るように。」って言ってたな。…でも、神谷さんのことでいっぱいいっぱいだったし。
「だから、俺と帰るぞっ。」
「えっ!?かっ、快君はみんなと帰った方が…っ。」
「…みんなより、お前の方が心配なんだよ…。」