「武波先輩にお会い出来て本当に光栄ですっ!わたし、武波先輩のこと、先輩が小学5年生の時から知ってるんです!校内水泳記録会でぶっちぎりの優勝を成し遂げられていて...本当にすごいと思いました!あの日から先輩は私の憧れですっ!」

「あ...ありがとう」


海里は明らかに照れていた。

頬を夕日のように赤く染め、恥ずかしながらもはにかんでいる。

その視線の先には体を左右に揺らしながらニコニコと笑いかけている、赤いリボンの女子生徒の姿があった。


「今年からはわたしもいますし、今年こそ本州の人達に勝ちましょう!」

「そういうのは良くない」

「良くなくないですっ!ライバル心メラメラ燃やして戦いに行った方が100パーセントいい記録出ますよ!」

「人と戦う前にまずは自分だよ。自分に勝たなければ意味がない」


海里の静かな炎が見え隠れしている。

幼なじみの私でさえ見ることが少ないその炎と熱を、私の知らない女の子に必死に伝えようとしている。

その事実に撃たれた私は、目を伏せることなく、時が流れるのを呆然として待っているだけだった。


「まあまあ、武波くん、新人さんにそんな強く当たらないの」

「そうそう。会沢さんはスポーツ推薦で入った期待の新星なんだから、ちゃんと育ててあげなきゃな!」