しばらくすると、呼吸が整ったのかりくは言った。

「美咲から聞いた」

そっか、美咲がりくに伝えたんだね‥‥‥

「桜、どうして俺だけ引っ越しすること伝えなかったんだよ」

キミの目は真っ直ぐ私を捉えているのに、私はその目を見ることができなかった。

「‥‥‥だって」

だって、キミに会うと‥‥‥

会ってしまうと‥‥‥

「‥‥‥悲しくなるから」

弱々しい声でそう言った。

悲しくなるだけだから、キミに会いたくなかった。

別れが切なくなるから、キミに何も言わずに去りたかったのに‥‥‥

蚊の鳴くような私の声は、りくの耳に届いていた。

「俺だって、悲しいよ。桜が遠くに離れてしまうなんて。でも、それを知らずに急に桜がいなくなったらもっと悲しい」

りくのその言葉で、私は本当にバカだと思い知らされた。

りくも私と同じで『悲しい』と言ってくれたんだ。

りくの気持ちを無視して、私はキミの前から姿を消そうとしていた。

「‥‥‥ごめん、りく」

「もういいよ。こうして、桜に会えたんだし」

りくは、いつだって優しい。

こうして、私に会いに来てくれた。

だから、キミにちゃんとお別れしなちゃ‥‥‥