人がひしめく電車に君と乗っていた。

単に、通勤ラッシュということではなく、普段は見慣れない紅や紺を散りばめた浴衣を着た人々がいる。

今日は、夏祭りだ。

普段ならば、今頃僕たちは帰路につくか、自習室にいるかの二択だった。

でも僕たちは、2人が通う塾より2駅南にある会場へと向かっている。

僕は、屋台が出て花火が上がるだけの祭りに興味はなかったし、別に来る予定なんてなかったのだけど、行きたそうな君のためだけにきた。

それも結局、僕のためかもしれない。

君との時間を増やすため、そう思えば胸が高鳴った。

褪せていたいつかの夏祭りの記憶が、たちまち鮮やかになった。

「私たちがここにいるのは秘密だからね。
私たちは、いつもより少し遅くまで自習をしていた。
そういうことだから。」

どこか浮き足立つ君が僕に釘を刺す。

僕はその言葉に惜しげもなくうなずいた。

無論、彼女の言った「そういうこと」の意味を詳しいところまで理解していた。