「いっ…た…っ」

激しい痛みが走り気付いた時には地面に伏せてしまっていた。


「茉莉花!大丈夫か!?」

晴人の声がする。


後ろからは引き離していたはずの他クラスの子達が次々とゴールしていく。

申し訳なさと足の痛みで目を潤ませ、みんなの歓声や心配の声が耳を掠める。

でもどうしても立てなかった。みんなに迷惑をかけてしまったことに、どんな顔で起き上がればいいのか到底わからなかったから。


「…っく」

ばかだ、私。

こんな、最後の最後でっ…

私のせいで、せっかくの優勝が…っ


「茉莉花!!」

一粒の涙が頬に落ちそうになった時、晴人の私を呼ぶ大きな声で目線を上げる。


顔を上げると晴人がゴールテープの向こう側で叫んでいた。


「お前が今負けてるのは自分自身だ!!そんな茉莉花俺は見たくねぇぞ!!」

晴人が必死に訴えている姿が目に飛び込む。


たくさんの人がいるこの運動場で、まるでこの世界に二人きりしかいないような感覚に陥った。

不思議。周りの音が何も聞こえない。


「は…ると…」


そうだ、このままここいたら今まで練習に付き合ってくれた晴人の気持ちも踏み躙ってしまう。

「心配すんな!!言っただろ!傍にいてやるって!」


ーーだから最後まで頑張れ!!

晴人の言葉で溢れそうになった涙をなんとか堪えた。

ふと左手首に百合からもらったリストブーケを見る。

「そうだね…」


ーー私は、弱い自分に負けたくない


だんだんと周りの音が耳に入ってくる。

なんとか体を起こし、足を引きずりゴールまで向かう。

走者はみんなゴールしており、私だけが残っていた。


両膝からは痛々しく血が滲んでおり、着ている白いパーカーも砂だらけ。

かっこ悪い。だけど、ここで諦めたらもっとかっこ悪い!



「林さーん!もうちょっとだ!頑張れー!!」

「茉莉花ちゃん、ゆっくりでいいからね!!」

「がんばれー!!」

「林さーーーん!」

先生に止められながら数名のクラスメイト達もテープまで走り私がゴールするのを待ってくれている。

そんな中、晴人が微笑んで両腕を広げて待っていた。


「俺の胸に飛び込んで来い」

どこかで聞いた事のあるようなクサイ台詞。
その言葉に「馬鹿じゃないの」と言って微笑むと後ろから風が吹き荒れそのまま身を任せた状態で白いテープを切った。
足はジャリっと運動場の砂を擦り力なくその場で座り込む。
両膝がジンジンと痛み出す。


「林さーーーん!!」

「すげぇよ!マジすげぇよ!!超速かった!!」

「私感動しちゃったよー!」

私の元にリレーに参加していたクラスメイトが人混みを掻き分けて側に来てくれた。


「ごめん…私、転んじゃって…」

下を向いていると頬を両手で包まれてくいっと顔を上げさせられた。


「全然ごめんじゃないよ!!林さん、すっごくすっごく頑張ってたもん!」

目を潤ませながらそう言ったクラスの女の子に安心した笑みを零した。

林さーん!お疲れ様ー!と大勢の声が聞こえて振り返るとロープ越しにクラスメイトが手を降っていた

私は左手首のリストブーケを見た後、その腕を大きく上に上げてピースサインをした。


みんなさらに歓喜に溢れた。


「…勝ったの俺らだよな?」

「なんか持ってかれてね?」

一位のクラスがそう言っていたのは、私のクラス全員誰も知らない。