少し肌寒さを感じて目を覚ますとカーテンから光が差し込んでいた。

ぼーっと窓を見つめベッドのサイドテーブルに置いている時計を見る。


「…え!?朝!?」

余程初日の登校で体が疲れていたのか、朝までそのまま寝てしまっていたらしい。


制服の皺を伸ばしハンガーにかけ急いでお風呂に入り、また制服に身を包む。


「一日って何でこんなに短いの…!」


駅まで向かい、なんとか時間通りの電車に乗ることが出来た。

学校の最寄り駅に着き改札を出た時、「おはよ!」と声をかけられ振り向いた。


「電車通学だったんだな!俺も〜」


げっ、また出た!


朝から眩しいくらいの笑顔で話しかけて来たのはまた隣の席の天野君だった。


「今日朝から数学だよな〜、そんな朝っぱらから数字とか公式なんて頭に入らねっつーの…っておい!」


彼の言葉に無視して私は足早にその場を立ち去ろうとするが、私よりも幾分背の高い彼の歩幅は大きいらしくすぐ追いつかれてしまった。


「無視すんなよ〜」


口を尖らせて大きい目で覗き込んでくる彼の端整な顔が近くにあり、ぶわっと顔が赤くなる。


「い、急いでますので!」


次こそ追いつかれないようにと私は走って学校へと向かった。


こんなに壁を作っているのに、それでも彼は


「次、実験でりんご使うんだって!ちょっとくらい食べてもバレないよなー?」


「さっきの体育での俺のディフェンス見た!?超かっこよかったっしょ!」


「俺さ〜、あのゲーム欲しいんだよねー。林はゲームとかする?」


来る日も来る日も無反応な私に話しかけてくる。

なんなんだこの人…。


「サッカーするやつー!運動場集合ー!」

「お!俺行ってこよ!じゃあな!」


サッカーボールを持ったクラスメイトの呼びかけに天野君は数名の男子生徒の後を追って走って行った。


やっと解放された…。

お弁当を食べ終え、チラリと窓から運動場を見るとカッターシャツの袖をまくり上げ天野君達がサッカーをしていた。


通りがかった女の子達が話しかけ、天野君達も笑顔で答えている。


そんな彼らの姿を見て、自分と違う世界の人なんだと思い知らされる。

天野君はいつもいろんなグループの中にいて、毎日が楽しそうだ。

明るく、きっと誰とでも仲良くなれる性格だからいろんな人から引っ張りだこなんだろうな。


私は視線を戻し、次の授業で使う教科書を出した後授業開始のチャイムが鳴るまでの間机に顔を伏せた。