「本当に大した事ではありません」

「構いません」

 同じ問答を何度か繰り返した末に、犬飼は大きなため息をつくと苦渋に満ちた表情で木綿子に告げたのである。

「私は……あなたにお仕えしたいのです」

 そう告げられた時、最初は一体何が起きたのかわからなかった。

(仕える……?)

 犬飼の言う「仕える」とはどういうことか分からず、木綿子はしばし首を傾げた。

 しかし、いくら考えてみても結論がでないため、結局は犬飼に尋ね返すしかなかった。

「あの、仕えるって何のことですか?」

「言葉通りの意味でございます。私は……あなたの身の回りのお世話をさせて頂きたいのです」

 犬飼は年齢や肩書問わずいつも丁寧な言葉遣いで話すが、今は殊更芝居がかったような堅苦しい言い回しを使っていた。

 まるで本物の執事のようにかしこまっている。

……いや、本物の執事なんて見たことがないけれど。