「お嬢様と一緒に酒を頂くなど……。私には恐れ多いことでございます」

「そう……ですよね……」

 残念そうに目を伏せる木綿子の表情を見て、桜輔は自分がとんでもないことをしでかしてしまったと気がついた。

 そこにはお嬢様の仮面を被った木綿子ではなく、桜輔の心ない一言で傷ついたひとりの女性がいたからだ。

「わ、私……。帰ります……!!」

 木綿子は脇目を振らずベッドルームに駆け込むと、着てきたブラウスとスカートをハンガーから外し、トートバッグを引き寄せた。

「なぜですか!?」

 桜輔は帰ると言い張る木綿子を押しとどめるように扉の前を塞いだ。

「だって、自分が恥ずかしい……。犬飼さんは私のことはお嬢様としか見てないのに……。親しくなった気になって……勝手に期待して……!!」

 ポロポロと涙を零す木綿子に、桜輔は心を揺さぶられた。

……これはあまりにも自分に都合が良すぎではないだろうか。

 ドクンと心臓が大きく波打ち、頭が沸騰しそうだった。