ものは試しとばかりに真の主人とやらを探してみた。しかし、探せば探すほど真の主人は見つからない。

 主人は誰でも良いというわけではない。

 桜輔が仕えたいのは誰よりも気高く、華のように気品があり、たおやかで芯が強く、高潔な魂を持った人物である。

 あいにく、そんな人物がおいそれと見つかるはずがない。

 主人を探し始めて一年が経つと、桜輔は諦めの境地に達していた。

 熱心に技を教えてくれた老人には悪いが元の退屈な人生に戻ろうと思った矢先……桜輔は出会ってしまった。

 桜輔が木綿子を見つけたのは本当に偶然だった。

 配置換えにより総務部から営業部やって来た木綿子を見た途端、桜輔の身体に電流が走った。

 そして瞬時に悟った。

(私は彼女に奉仕するために生まれてきたのか……)

 木綿子との出会いは、桜輔にとってあまりにも衝撃的だった。

 身体中の細胞すべてが活性化し、血がたぎる様に全身を駆け巡り躍動した。身体の内側をすべて作り替えられたと言っても過言ではない。

 桜輔は木綿子にかしずきたい衝動を必死でこらえた。

 会社で不用意に主人と呼べば、不審に思われるのは間違いない。変態扱いされ、最悪クビだ。事は慎重に運ばなければならない。

 頭では理解できていても、そう容易く桜輔の奉仕欲は抑えられるものではなかった。