「今日のお茶はなに?」

「本日は、ローズヒップとハイビスカスに蜂蜜をひと垂らし致しました」

 食事が済みソファに腰掛けると、今度は特製ブレンドティーが運ばれてくる。

 ティーカップに注がれたルビー色の液体からは、なんともかぐわしい香りがした。

 茶葉をブレンドしたのはもちろん犬飼だ。木綿子のその日の体調や気分によって、茶葉の配合を少しずつ変えてくれる。

 キッチンには茶葉専用の棚があるが、木綿子にはどれがどれだかさっぱり分からない。

 もし、木綿子がコーヒー党だったなら、あの棚にはコーヒー豆が置かれていたことだろう。犬飼が嬉々として道具を買い揃えるさまが目に浮かぶようだった。

 夕食の後はお茶を飲みながら趣味の読書にふける。時間に余裕がある場合は映画を見る時もあるが、木綿子はとりわけ読書が好きだった。本を読むふりをして、部屋の隅に控えている犬飼をのぞき見することが出来るからだ。

 ページをめくりながらこっそり犬飼を窺い見れば、彼はキッチンでシャンパングラスを磨いていた。

 犬飼は慣れた手つきで柄を持ち、曇りひとつ残さぬように丹念にグラスを磨いていく。

……犬飼にあれほど熱烈に見つめられるグラスが羨ましい。

「どうかされましたか?お嬢様」

「いいえ。何でもないわ」

 木綿子は我に返ると、慌てて開いた本に視線を落とした。

 熱いまなざしを送っていたことを彼に気づかれてしまっただろうか。気づかれていたら、どうしよう。

 見咎められることを恐れオドオドしていた木綿子だったが、犬飼はさして気にした様子もなく、空になっていたティーカップにお茶のお代わりを注いでいく。

 犬飼は気の利く執事だが、女性の心の機微には疎い模様。

 それとも、あえて気が付かないふりをしているのだろうか。

 本の内容などちっとも頭に入ってこない読書の時間を終えると、今度は就寝の時間がやってくる。