美桜が俺の家に来たのは俺が7歳の時。
ふわふわの栗色の髪と同じ色の瞳。
華奢で色白でまるで…

どこかのお姫様みたいだ

って当時の俺は思った。
全く笑わない儚くて消えてしまいそうな少女。
か弱い雰囲気で守ってあげたくなるような子だった。
俺がその時の彼女について知っているのは、秋好と言う名字であったことと生年月日、そして驚くことにH大を首席で卒業していたこと。
6歳とは到底思えない、「天才」だった。


そしてその日から美桜は


春田美桜になった。


美桜の天才ぶりはH大の件だけではない。
自分でいうのもなんだが俺は勉強も運動もかなりできる方。
それでも妬んでしまうほど美桜は天才だった。
運動神経は抜群でどんな大会でも簡単に優勝できた。
音楽も得意で絶対音感の持ち主。
一度聴けばどんな難曲でも奏でて見せた。
美術の才能もあり、コンクールに出品すれば年上の作品を押しのけて最優秀賞。
さらに器用で細かい作業も難なくこなす。
ハッキングもできたし、機転も良くきく。
そして、カメラアイの持ち主。
一度見たものは決して忘れない、いや忘れられない特殊な人間だ。
その中でも俺が1番驚いたのは、

「喧嘩」

だ。


美桜の運動神経から喧嘩ができることはなんとなく分かっていたがはじめて見た時は言葉を失った。
それは春田財閥を狙って誘拐されたときの話だ。
俺、
ムダひとつない隙を見せない動き。指先まで神経が完全に行き渡っているような上品さ。舞っているような美しい喧嘩を俺ははじめてみた。
俺が見とれている間に喧嘩は終わり、母さんと父さんが助けに駆けつけるまで、ずっと呆然としていた。
美桜は家に着く前、俺にそっと話しかけた。
「良かった。お兄ちゃん。」
そう言って薄く微笑んだ。
はじめて俺をそう呼んでくれた。はじめて笑いかけてくれた。


美桜へ向けていた少しの妬みが


家族への愛情に変わった瞬間だった。