日常(仮)

隼人side

あの事件から心愛は、明らかに俺を避け始めた。
小さい頃から心愛の周りで不思議なことが起こることがあったことは知ってたし、何があっても心愛の味方でいようとも思ってた。思ってたんだ、

けど、現実にあんな事件が起こってしまったら自分はどう行動することが正しいことなのか、わからなかった。
なんて声をかけたらいいのかすら、わからない。
心愛が自分を見失うようなきっかけを作ってしまったのは俺。
心愛を守るどころか、追い込んでしまった。

どうするべきなのか答えが見つけられないまま時間だけが過ぎた。
時間が経つほど、あの事件での誹謗中傷などはおさまり、仕事が増えてきた。
仕事が忙しいのを言い訳に、俺は前に進めないまま。話したくても話せない状況に助けられてるような、もどかしいような。

「心愛、早く!早く!」

「ごめん、先に行ってて。」

廊下にいた時に、声が聞こえてきた。
あかりが教室から出て行くのが見えて、教室をのぞいてみると心愛が机やカバンの中を探していた。
机の上には、ノートと筆箱のみ。

教科書でも忘れたか?なんの教科だ…?

教室の掲示板で時間割を確認して、自分の教室に取りに戻る。
教科書じゃなかったなら、それでもいい。
何を話したらいいのかわからないけど、心愛と話せるきっかけになるかもしれないと思った。
自然と教科書を取りに行く足がはやまる。

うしっ、

自分の教室を出る前に覚悟を決める。顔を下に向けた状態で、肩をあげておろす。
落ち着いて、前みたいに。自然に。

顔をあげたタイミングで、教室からちょうど出てきた心愛と目があった。
けど、逸らされてしまった。

逸らすことないだろ、心愛のやつ、

「心愛」

目の前を通りすぎて行こうとする心愛の名前を呼んだ。

「ごめん、急いでるから」

教科書を差し出す。

「これだろ?」

「や、でも…「いいから。早くしないと俺も遅れるんだけど」

断られそうになったけど、ほぼ押し付ける状態で渡した。
受け取れよ。受け取ってくれなきゃ、きっかけが作れないだろ。

「ありがとう、」

「うん」

教科書は受けっとってくれたし、お礼も言ってくれた。
でも、なんでこっち見てくれないんだよ。

そのまま、心愛は行ってしまった。

やだよ、このままなんて。

あんなに近くにいたのに、どんどん遠くなる。
お願いだから、いなくならないで。

小さくなる心愛の背中を見ながら、そう思った。


授業中、頭の中で何度もシミュレーションをした。
なんて会話をつなげよう、どんな雰囲気だと話やすいだろうか。
何パターンも考えた。

なのに、

教室を離れている間に、貸したはずの教科書は机の上に置かれていた。

なんでだよ。逃げんなよ、心愛。