日常(仮)

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「心愛、早く!早く!」

学校での移動教室。
教科書が見つからなくて焦っていた。

「ごめん、先に行ってて。」

あかりまで授業に遅刻させる訳にいかない。
他のクラスで教科書借りよう…って、他のクラスに仲いい人いないじゃん、

「あちゃー…」

あきらめよう。当てられないことを祈るしかない!
そう思って教室を出た時、隣の教室の入り口付近にいた隼人と目が合った。
とっさに目をそらしてしまう。

今日は学校に来てたんだ。

隼人に対する誹謗中傷も収まってきて、仕事の量も増えてた。
ぎりぎりの出席日数で来てるんだろう。

「心愛」

隼人に名前を呼ばれた。

「ごめん、急いでるから」

そのまま通りすぎようとした私の目の前に教科書を差し出した。

「これだろ?」

「や、でも…「いいから。早くしないと俺も遅れるんだけど」

隼人を授業に遅らせるわけにはいかない。
ただでさえ出席ギリギリなのに。

「ありがとう、」

「うん」

教科書を受け取った。
ありがとうと言葉に出したが、隼人の方を見ることは出来なかった。

間一髪、私も授業に間に合ったが授業の内容なんて全然頭に入ってこない。

あー、好きだなあ。

私が普通だったら、今も隼人の隣にいられたのかな。
自分の感情ちゃんとコントロール出来てたら、隼人のこと巻き込まずにすんだのかな。
自分が普通だったら良かった、なんて久しぶりに考えた。
施設で化け物扱いされてた頃、ていらと一緒にいられるならもうなんでもいいと思っていた。みんなと違くても、普通じゃなくても。
けど、今は普通が羨ましい。

結局、あっという間に授業は終わってしまったように感じる。
借りたものは直接返すべきで、ありがとうとちゃんと伝えるべきだということはよくわかってる。
…けど…、勇気が出ない。

付箋に「ありがとう。心愛」と書いて、教科書とともに隼人の席に置いてきた。
なんていうんだろう、この感情。罪悪感に近いような気持ち。
帰り道で、ていらにも怒られた。お礼を言って、直接本人に返すべきだったと。
モヤモヤした思いはいつまでも付きまとっていた。

施設に着いてもモヤモヤは消えなかった。
悩んだ時は、いつものあの部屋。
ただひたすらボーっとしていた。
「こころ、」

「んー…」

ていらに名前を呼ばれても気の抜けた返事しかできない。

「言わないほうが、こころは幸せだった?」

「…わかんない。けど、…何も知らないままだったら、もっと怖かったと思う。」

結衣の事件があって、自分が普通じゃないことを知った。
今回のことから逃れられても、また似たようなことが起きてしまうかもしれない。
自分の行動に気づけないまま、不安に飲み込まれていく方がよっぽど怖い。

それに、

「私のことだもん。ていらにだけ背負わせたくないよ。」

小さい頃からずっと、ていらが私を守ってくれていた。
ていらに守ってもらうだけじゃなくて、私自身向き合っていくべきなんだ。

「これからも、よろしくね」

「もちろん」

顔を向かい合わせてほほ笑んだ。