日常(仮)

「何?」

「天使と悪魔って、どんなイメージある?」

ふざけてるのかなと思ったけど、
すごく真面目な顔して質問するから変な緊張感があった。

「天使と悪魔?えっと…、天使は裸で白い羽生えてて神様の手伝いしてる感じで、悪魔は槍持ってて悪さしてるイメージ、かな。正反対って感じ…?」

質問の意図がわからなかった。
どうして、そんなこと聞くの?

「こころが生まれた世界は、こっちでいう天使と悪魔のイメージに近いところなの。」

ん?
思考が追い付かなかった。何それ?どういうこと?

「正確には違うところもたくさんあるんだけど、「まって、待って!!!」

私はていらの話を止めた。
意味が分からなかった。天使と悪魔なんて、存在しないでしょ。
私、人間なんだけど。

「信じられないと思うけど、今から話すことは本当のこと。絶対嘘は言わない。」

全身にチカラが入ったままの状態で、ていらの話を聞いた。

「私たちがいた世界は、こっちの世界でいう天使と悪魔に近い存在が生きる場所なの。けど、こっちのイメージみたく対立はしてない。共存していた。一緒に生活してた。

天使にあたる存在は、人の幸せを調整して、悪魔にあたる存在は不幸の部分。けど、身勝手に調整するのではなく、その人に与えられた運命に従って調整してきたの。
どちらも、それぞれの役割を全うしている。

そんな世界にね、決まりがあったの。別々のチカラを持つ者同士、天使と悪魔の間で子供を授かってはいけない。
差別されてる訳じゃないよ。チカラの大きさの問題。両方のチカラを得ることになる子供は、周りよりも莫大な大きさのチカラを持つことになるの。
そして、そのチカラのコントロールには感情が大きく関わる。
楽しい、嬉しい、頑張ろうとか前向きな感情は幸せやプラスにチカラを大きくする。逆に、悲しい、辛い、苦しいとか負の感情は攻撃的なマイナスのチカラを大きくする。
私たちにも感情はあるから、大きなチカラを持った者が感情のコントロールをうまく出来なかった場合大変なことになる。
世界の平和を守るために作られた決まりなの。」

嘘みたいな話。
けど、絶対嘘は言わないって。
ていらがこんな状況で嘘なんか言わないと思いつつ、正直全然信じられなかった。

「その決まりを破ったのが、こころの両親。」

ごちゃごちゃになっていた頭の中が一瞬で真っ白になった。

「こころの両親は、必死に隠れてこころを産んだの。
そして、見つかった。こころを殺さない条件に人間の世界で生活することが出された。
ストレスや悪意を感じる環境で、感情が暴走することなく生きられたら、人間の世界での死後、戻ることを許してもらえた。」

「嘘…じゃない…んだよね…。
でも、私のそんなチカラない。それに死ぬまでここで生きるなら、私は結局お父さんとお母さんには会えないの?」

「人間の世界と私たちの世界で時間の流れは違うの。だから、人間の世界で十分生きても必ず会える。それは保証する。」

自分には存在しないと思い込んでいた両親がいる。
会えるかもしれない。
ごちゃごちゃな頭の中で、唯一の光になった。

「本当はまだ話すつもりなかったんだけど、
昨日、目に見える形でこころの負のチカラが生じてしまった。」

ていらが視線を落とした。
自分が責任を感じているような、悔やんでいる表情をしている。
そして、怖くなった。

「私、何したの、ねえ!何したの!?」

昨日、自分が何をしたのか覚えていない。
なぜ病院にいたのかも、わからないままだった。

「…身体の自由を奪って、結衣に顔を潰させようとしてた。」

ていらが見たあの時の光景を話してくれた。
自分がそんなことをさせられたことも、させたことも信じられなかった。
信じられなかったけど、

「正直、全然覚えてないけど、…顔を狙ったのはなんと無くわかる気がする…。」

隼人の撮影を見に行った時に、結衣が顔を褒められることを嫌がってるように感じた。
だから、顔を褒められることにコンプレックスでもあるのかなとは思っていた。

ああ、どうしよう。
さっきまで全然実感が無かったのに、覚えていない時の行動と自分の考えが合わさる部分が出てきてしまった。

「…私、どうなるの…」

私、加害者だ。犯罪者だ。

「こころは結衣の自傷行為に巻き込まれたってことになってる。指一本触れてないし、結衣は精神的なことが原因でまともな会話が出来てないみたい。」

私が病院で寝てる間に、ていらはたくさん調べてくれてた。私を守ってくれていた。
私と結衣の接点は、撮影を見にきてたことと隼人を通した友人になっているらしい。

「けど、私がしたことは変わらないじゃん、」


「今こころが、私が特別なチカラで結衣を傷つけましたって話して納得する人間がいると思う?誰もこころを罰せられないのが現実だよ。」

「じゃあ、私はどうしたらいいの!?」

「自分のチカラと向き合って、どっちのチカラとも。」

まっすぐな目で私を見ている。