日常(仮)

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心愛side

目が覚めると知らない天井が視界に入った。
消毒の匂いか、薬の匂いか、わからないけど匂いと雰囲気的に病院だとわかった。

「ていらぁ、いないのぉー」

ぼそっとつぶやく。
体調が悪いわけではないが、無気力というか、何もしたくない。何も考えたくない。
そんな感じ。
また、目を閉じる。働かない頭を動かして考える。
なんで病院にいるのか。昨日、自分は何をしたのか。
女の子から話を聞いて、ものすごく頭にきたのは覚えている。
ずっと身体の真ん中で黒い何かがぐるぐるしてるのがわかってた。みんなといるうちは、どうにか自分を保ててた。けど、ていらと2人になった後私の中のストッパーが外れた気がした。
そして、今。

ぼーっと天井を見つめている間にコン、コンとドアがノックされる音が聞こえた。
うんともすんとも言わないで、ドアの方を見つめた。

「心愛ちゃん、大丈夫?」

入ってきたのは施設の先生。

「大変だったね。」

何が大変だったのだろうか。
私よりも大変なのは隼人や施設の女の子。
大変だったのは、施設を転々としていたあの頃。
隼人の出会う前のあの頃。

「ていらはどこ?」

「ていらは施設にいるよ。さすがに病院には連れてこれないからね。」

あー、ていらって猫か。そりゃダメだ。

「私どこも悪くないんでかえっていいですか?」

病院にいて、ていらに会えないのなら早く帰りたい。
先生にお願いして手続きを行ってもらった。

施設に戻っても、ていらは姿を見せなかった。
ていらを探してうろうろしていたが、「今日は安静にしてなさい」と言われて部屋で休むよう促された。

部屋に向かう途中、物置部屋をのぞいた。
「あ、いた。」

窓から外を見つめ丸くなてったていらを見つけた。

「ていらー?どうしたの?」

窓の方を向いてこっちを見てくれない。
何か怒ってるの?

「ていらてっば、」

「私の声、届かなかった。」

「え?」

窓の方を向いたまま、ていらは話してくれた。
嫌なことが続いて暗い気持ちに飲み込まれていた時何度も私の名前を呼んでくれていた。けど、私はそれにこたえられなかった。
隼人が呼んだ時私は我に返って気を失ったらしい。

「私じゃダメだった。」

正直、暗い気持ちに飲み込まれていた時のことは何も覚えていない。
ていらに名前を呼ばれていたことも。
隼人に名前を呼ばれていたことも。

けど、ていらを傷つけてしまったことはわかる。
私はていらを抱きかかえて自分の方に向けた。

ムッとして斜め下を向いてる。
こんなていらを見るのは初めてで、ちょっぴり愛おしいと思った。
ああ、数年前までしょっちゅうこんな顔してたのは自分だなあ。
そのたび、ていらがブスになるよって言ってたっけ。

「ていら、ブスになるよ?」

「こころに言われたくないんだけど。」

「ふふ」

「何笑ってんの」

「いつもと逆だなあと思って。ねえ、ていら。ていらの声気づけなくてごめんね。正直、自分が何したのか全然覚えてないんだ。けどさあ、ありがとう。」

私の意識が飛んでいる間、何度も止めようとしてくれていたのだろう。

「ずっと私のそばで名前呼んでてくれたんでしょ。」

ていらは小さくうなずいた。

「私はていらが大事で大好きだよ。ずっと一緒にいたい。これからも一緒にいてよ。」

「…あたりまえじゃん。」

「ありがとう。」

満面の笑みで答えた。
ていらがいてくれて、隼人がいてくれて、私は恵まれていると思っていた。
本当に幸せ者だなあと。

けど、知らなかった。自分があんなことをしてしまっていたなんて。
自分にそんなチカラがあるなんて。

「こころ。ずっと、こころに隠してたことがある。昨日のことも含めて…聞いてほしい。」