日常(仮)

結衣さんの事務所に到着した。
事務所に残ってた人達に驚かれる。

「結衣さん、どこにいますか!?」

「えっと、結衣がまた何か…、「何かあるから来てんすよ!!!」

対応に困ってる事務所の人にイライラする。
早くしないと。早く止めないといけないのに。

「隼人!こっち!!」

「ちょっと!」

全部無視して、ていらが誘導する方に向かう。

「ここ!」

ていらが示す部屋の扉を開けた時、とんでもない光景が目に入ってきた。
部屋の壁に顔面を打ち付けている結衣さん。
そして…その様子をただ見つめている心愛。

「こころ、やめて!こころ、!」

近寄った心愛の足元で、ていらが何度叫んでも声は届かない。
なんの反応もない。

「どうなってんだよ」

着ていたパーカーを脱いで、結衣さんと壁の間に挟んだ。
壁から離そうとしたが、俺の力だけでは離すことが出来なかった。
結衣さんの顔は出血や痣が酷くて、直視出来ないほどだった。
もう結衣さんの意識はないに等しい状態。
そんな人間が自分自身で壁に顔面を打ち付けられるはずがない。

「おい!心愛!」

ここに来てから、初めて心愛の顔をちゃんと見た。
感情がない。
他にどう表していいのか、わからなかった。けど、初めて見る心愛だった。

「こころ!飲み込まれないで。戻ってきて。」

何度も何度も、心愛に声をかけ続けるていら。

後ろから追いかけてきた事務所の人たちと警備員も、入ってきた。
「なにやってるんだ!?」
大きな騒ぎになり、数人の力を合わせて無理やり壁から引き離すことが出来た。
しかし、手を離せば結衣さんはまた、自分で顔を壁に打ち付け始めてしまう状況だ。

結衣さんを他の人に任せた後、すぐに心愛のそばにかけよった。
「なんだこれ、」
近くによってみると、心愛の周りで黒いモヤのようなものが生じてるのがわかった。

「これのせい?」

ていらはこれに飲み込まれるなって言ってたのか?

「これはこころの中にあるマイナスのチカラ。こころがマイナスの感情にのまれれば、のまれるほどマイナスのチカラは大きくなる、」

マイナスのチカラ?なんだそれ?
アニメかマンガの世界かよ。

「よくわかんねえけど、どうすればいいんだ、」

「もう、こころの意識がのまれちゃってる。起こして。こころを起こして。」

起こすってどうすればいいんだよ。
あーーーーー、くそっ。

パチンッ

俺は心愛の頬を叩いた。
そして、周りにある黒いモヤから引っ張り出すように、心愛を抱き寄せた。

「心愛、起きろ。戻ってこい。」

心愛の身体は全身に力が入ってた。
黒いモヤに触れた瞬間、怖い、やめて、悲しい、寂しい、怒り、哀れみ…
人間が持つマイナスの感情が一気に入ってきた。
いつから、こんなモヤ周りに着けてたんだよ。そりゃあ、起きてるの苦しかったよな。起きてるの嫌になるよな。

「…は……やと………。」

「心愛」

「……ごめん…ね。」

ごめんね。そう言い終わると、心愛の身体の力が抜け意識を失った。
同時に、結衣さんの異常な行動も止まり、押さえる必要がなくなった。
結衣さんが落ち着いたのを見て、心愛が起きたんだと思えた。
心愛の身体を横に寝かせた時、涙が頬をつたっていた。

「起こせたんだよな?」

ていらの方に視線を向ける。

「黒いモヤが消えてるから、こころはもう大丈夫。ありがとう。」

心愛の頬にそっと触れる。
「叩いてごめんな。」

もう、大丈夫。その言葉を聞いてほっとした。
けど…、もう大丈夫で安心できるのは、心愛だけだろう。
救急車が呼ばれて向かってる間、結衣さんは応急処置を受けていたが、
あの傷とアザではしばらく仕事は出来ない。
大きな傷痕が残れば、今後の活動自体難しくなるだろう。

ていらがぴったりと心愛に寄り添い「良かった」と安堵している様子と痛々しい結衣さんの姿を見て、自分はどういるべきなのかわからなかった。