日常(仮)

こっちを向けていた顔を一瞬下に下げて、再び向けられた時
さっきまでの気味の悪い微笑みは、消えていた。
というより、感情そのものが消えたような感覚だった。

「隼人はこんなこと必要ない。隼人自身の力で欲しいものは手に入れていく。…だから、貴女の存在は必要ありません。」

「…だって、」

言い返す言葉が見つからない。

「あと、もう1つ。」

「…。」

「どうしたら、亡くなった両親に会えるのでしょうか。」

「…その子も死ねばいいだけでしょ。」

「たくさんの質問に答えて頂きありがとうございました。お礼をしなければなりませんね。
んー、その顔がなくなれば、貴女の望みは叶いますね。」

「は?」

「貴女、自分の顔邪魔なんでしょう。その顔がなくなれば、顔で判断されなくなりますし隼人のことも必要じゃなくなりますよね。そしたら、二度と施設の子たちに近づく必要もなくなる。」

「何言ってるの?」

そんなことできるはずないと思いながらも、自分で焦っているのがわかる。
前に外国で塩酸を顔にかけられた女性にニュースを思い出した。
え、まって。

満面の笑みで私にこう言った。
「そうだ、その顔つぶしちゃいましょう。」


その瞬間、私の身体の自由はなくなった。

自分の顔面を自分で壁に打ち付けている。
何度も。何度も。
痛い、怖い。訳が分からないが、自分では止められない。

横から声がする。
「はやくつぶれるといいですね。」
とても楽しそうに嬉しそうに、ふふふと笑う声を交えながら
きっと壁に顔を打ち付ける私を見ている。

「お願い、やめて……、ごめん…なさい…ごめ、」

顔面の激痛と恐怖で涙が止まらない。
壁には血が付き始めた。

「まだ全然つぶれてませんよ。」



------・・・
隼人side

ピピっ、ピピっ

カップ麺のために3分で設定していたアラームがなる。
今日の晩飯、カップ麺かあ。
騒ぎがあって施設を出て一人で生活するようになって、寂しいと思うことが増えた。
みんなで一緒にご飯食べたり、ちょっとしたこと話したり、大事な時間だったんだなって改めて実感した。
カップ麺じゃなくて、施設でみんなとご飯食いたい。

『隼人』

記憶の中には必ず心愛が出てきて、俺の名前を呼んでくれる。
本当に喜怒哀楽が豊かになったよなあ。出会った頃なんて、ていらのこと握りしめてムスッとした顔して、目なんて合わせようともしなかったのに。

『だから、安心して好きなものを選んで欲しい…と思います。』

あの日、心愛の言葉がめちゃくちゃ嬉しかった。
ずっと俺が守るんだって思ってたけど、俺も守ってもらってたんだって気づいた。

「会てーなー。」

カップ麺片手に、ボソッとつぶやいた。
その時、

ん?

何かが部屋に入ってきた感覚がした。
小さい頃から霊的なものは見えていたから、今更怖いとか、そんな感情はないけど
ちゃんとわかる分、不法侵入されてる気分がする。

ほっとけば出てくかな。
カップ麺の蓋をはがして麺をすすり始める。
けど、すぐにカップ麺を置いた。

「なあー、ここになんかよう?」

霊でも、なんでもいい。誰かと話したかった。


「この人じゃないか?」
「やっと、見つけた…!」

何やら慌てた様子で、俺の前に現れたのは若い男女の霊。

「え、なに?」

「君が隼人くんだよね?」

「そうですけど…?」

「うちの娘がこころちゃんの背中を押してしまったんだ。君なら止められるって聞いてきた。取返しがつかなくなる前に、頼む。」

「お願い、こころちゃんを止めて。」

正直何が起こってるのか全然わからなかった。
けど、心愛が関係していて、取返しがつかないようなことをしようとしている。

「心愛、どこにいるんすか」

俺は部屋を飛び出した。
エレベーターで下に降りている時に軽く説明を聞いた。

2人の霊は、俺たちと同じ施設にいる女の子の両親らしい。
生まれ変わる順番が来るまでの間、いつも女の子を見守ってきた。
そんなある日、自分たちに会える方法を知ってるという女性が近づいてきた。
そして、その方法を教える交換条件に俺の私物を盗ってくるように要求した。

もう、この時点で結衣さんだと思った。
てか、結衣さんしか考えられない。

この話を心愛が聞いて、相手のところに向かったという。
めちゃくちゃキレてんだろうなあ。
施設のみんなのこと、すげー大切にしてるから。

マンションの外に出た時、走ってくる白い猫に気づいた。

「はやと!!!」

ていらだ。ていらだけど、いつもと様子が違う。
こんなに焦ってるていらは初めて見るかもしれない。

「早く一緒に来て!こころを止めて!!」

上にいったはずの霊が来て、ていらもこんなに慌ててる。
自分で想像していたより、ずっとやばい状況なのかもしれない。

「まじで、どうなってんだよ?」

「私じゃ止められなかった。もう、こころの視界に私は入れなかった。」

「…心愛どこにいんの?」

「結衣の事務所に向かってると思う。取返しがつかないことになる。…
……本当にのみこまれたら、こころは人間の命くらい簡単に奪える。」

走った。結衣さんの事務所まで無我夢中で走った。
心愛が簡単に命を奪えるなんて信じられないと思ったけど、すぐに心愛が小さい頃に起こしたという事件を思い出した。
そのチカラがあるなら、心愛を止めないと。
必要ない十字架なんて背をわせてたまるか。

向かう途中で、ていらが2人の霊に聞いた。

「どうやって、こっちに戻ってきたの?」

「こころちゃんの両親が、私たちのところを訪ねてきてくれたんです。このことがきっかけで、娘が暴走しようとしてるから、手を貸してほしいと。」
「自分たちは、罰を受けたから存在を認識してもらうことが出来ないからって言ってたわね。」

「そうゆうことか。…協力してくれてありがとう。」

何かを理解したていらは、スピードをあげて前に進んだ。