日常(仮)


「こんばんは。」

施設を抜け出した私がいるのは、どこだと思います?
そう。結衣の事務所のレッスンスタジオ。

自分でもどうやってここまで来たのか、わからない。
黒い感情に任せて進んだら、いつの間にかここにいた。

「あの、ここ関係者以外入れないはずなんですけど。警備員さん呼びますよ。」

目の前には、さっきまで練習していたであろう姿の結衣がいる。

「警備員程度でどうにかなるなら、私ここにいませんよね。」

静かにほほ笑んだ。

「何?急に入ってきて。何の用。」

「あなた、とっても可愛い顔してますね。」

「無視?」

「すごい可愛い顔。」

どんどん機嫌が悪くなっていくのが伝わってくる。

「なんなの?」

「顔は可愛いのに、他はミジンコ以下ね。」

クスクス笑いながらそう言う私は、私なのだろうか。


------・・・

事務所のレッスンスタジオで自主練をしていたら、事務所の人間以外の人が入ってきた。

「こんばんは。」

そう言って、不気味にほほ笑む少女。
よく見たら、知ってる顔。隼人くんの撮影を見に来てたはず。

「あの、ここ関係者以外入れないはずなんですけど。警備員さん呼びますよ。」

なに?文句でも言いに来たの?
こんな時間に勝手に会いに来て、責められるのはあんたよ。

「警備員程度でどうにかなるなら、私ここにいませんよね。」

また、不気味にほほ笑む。
なんなの、こいつ。頭おかしい。
不気味にほほ笑む顔をみて、恐怖を感じ始めた。

「何?急に入ってきて。何の用。」

「あなた、とっても可愛い顔してますね。」

「無視?」

人の質問を無視して、私の顔を褒めてくる。
何がしたいの、こいつ。

「すごい可愛い顔。」

また、顔。あー、すっごいイライラする。

「なんなの?」

「顔は可愛いのに、他はミジンコ以下ね。」

今までの不気味な微笑みとは違う。
クスクス笑うこいつは、私を小馬鹿にしたように蔑んだ目で見てきた。

「本当に可愛い顔ね。」

「いい加減にして!何が言いたいの。」

私は、可愛いって言われるのが世界で一番嫌い。
うるさい。うるさい。うるさい。

「あなた、可愛いって言われるの嫌いでしょ。」

ドッキとした。心を読まれてるのかと思ったから。

「生まれてからね、ずっと私たちみたいな環境で生活してると他人の感情読み取るのうまくなるの。大人の顔色うかがって、うまく立ち回らないと生きていけないからね。」

「私が嫌なことわかってて繰り返してたの?」

目を見開いて、驚いたような表情を見せる。

「本当に可愛いだけの女なのね。今の会話からして、そうだってわかりますよね。」

ムカつく。ムカつく。ムカつく。

「うるさい!!!何も知らないやつに馬鹿にされたくない」

「確かに。わかりません。…どうして、そんなに隼人に執着してるのか。」

「隼人くんはね、私をちゃんと見てくれたの。顔で私を評価しなかった。そんな人初めて会ったのよ。だから、欲しかったの。」

どこにいても、何しても顔でしか評価されなかった。
演技の仕事がしたくて、女優になりたくて、必死に頑張ってきた。
女優の仕事につながると思って、モデルの仕事も頑張った。
なのに、
『結衣ちゃん、今日も可愛かったよ』
『顔がいいから仕事もらえてんだよね』
なんなの。誰も私を見てくれない。
可愛い、顔がいいって、私はオーディションでこの役を勝ち取ったのに。

そんな時、隼人くんに出会った。
『表情の作り方、まじ尊敬してます。聞いてた通りでした。』
『あの言い方本人そこにいるみたいでした』
私の顔じゃなくて、演技を見てくれた。
嬉しかった。
隼人くんと演技について話してる時間がすごく楽しくて、幸せだった。


『んー、妹にはしたくないですけどね』

あの日、隼人くんの言葉を聞いてこみ上げてきた。
誰にも渡したくない。私のことを見ていて欲しい。私だけを。

最近ちょっとしたことで世間は匂わせだ、なんだって騒ぎ立てる。
だから、私と隼人くんに注目が集まるようにするのなんて簡単だった。
雑誌の内容なんて同じタイミングで受けてたら知れるし、撮影現場で会うから私物なんてすぐわかる。
後は騒がれやすいように、それらしく載せればいい。
たかがそれだけで、世間は騒ぐ。

「貴女は、隼人のこと視界にすら入れてないんですね。」

「は、?」

「自分の弱さを隠すために隼人を巻き込んだだけでしょ。」

「あんたに、何がわかるの!?お互い欲しいもの手に入れられるんだから、いいでしょ。」

「お互いの欲しいもの…?」

きょとんと首をかしげてみせる。わざとらしい。
行動すべてに腹が立つ。

「私は隼人くんが手に入るし、隼人くんは売名になる。私たちが一緒にいることは利益しかうまない。」