日常(仮)

学校の帰りに公園で遊ぶのを、しばらく控えるように子供たちに伝えられた。
隼人が共演しているドラマの撮影もそろそろ終わりを迎える頃だったので、もう何も大きな騒ぎが起きないことを、起こされないことを願った。

願っていた。

けど、私の願いは叶わなかった。

ある日の夜。みんなが夕食を食べる時間の時、女の子が一人姿を見せなかった。
普段は決まりをきちんと守る子だったから、何かあったのだろうかと思って施設の中を探した。

「どこにいるんだろ」

女の子の部屋、トイレ、行きそうなところを一通り見たがみつからない。

「みつけた。男の子の部屋にいるよ。」

「え、なんで?」

途中から分かれて探してくれていたていらが女の子を見つけた。

「なにか探してるみたいだった」

何を探してるんだろ。男の子たちにからかわれて、何かとられちゃったのかな。

ていらが教えてくれた通り男の子たちの部屋がある方に行くと、一室に明かりがついていた。

あれ、ここ隼人の部屋だ。
隼人と数人の男の子が生活する共同の部屋。

中をのぞくと女の子が一生懸命何かを探しているようだった。

「何してるの?もうご飯の時間だし、勝手に入っちゃダメだよ。」

よっぽど夢中で探していたのだろう。
声をかけた時びくっとして、顔をあげた。

「…ごめんなさい。」

「何探してたの?」

女の子の目が泳いでるのがわかる。

「えっと、あの……。ビー玉!図工で使ったビー玉が…部屋に入っちゃたから探してた…の」

きっと、嘘だろうなあ。
信じてあげられなくて、申し訳ないけど…部屋に転がり入ってしまったビー玉を探すのに、引き出しの中まで探すのは不自然だよ。

机の上に置いてあったビー玉が目に入ったから、とっさの理由に使ったんだろう。

「本当?」

「…うん…。」

女の子の目を見ると、顔を下に向けてしまった。

「わかった。ビー玉はまだ見つからない?」

「…うん。けど、もう大丈夫…。」

「見つかったら教えてもらえるように、この部屋の子にお願いしよっか。
さ!ご飯食べに行こう。」

(いいの?)

ていらに向かってうなずく。
私たちにも隠してることはあるし、知られたくないこともあった。
無理に聞くのはなんとなくできなかった。

女の子の手を取って部屋を出ようとしたが、女の子はそこから動かなかった。
しゃがみこんで、女の子の視線に高さを合わせる。
下を向いていたが今にも泣きだしそうだった。

「どうした?」

「…」

「んー。じゃあ、こうしよう。」

ていらに向かって、こっちに来てと手で合図を送る。

(なに?)

ていらに女の子の前に来てもらった。

「ていらにお話ししてみて。ていらはちゃんとお話し聞いてくれるし、誰にも話したりしないよ。モヤモヤな気持ち吐き出しちゃお、ね?」

そう言って、いったん部屋から出ようとした。

「…心愛ちゃんも、内緒にしてくれる…?」

私を引き留めた女の子は、もう涙が流れてしまっていた。

「もちろん。私も聞いてもいい?」

こくん、とうなずいてくれた。

「隼人くんの物探してたの。」

「隼人の?」

隼人の名前が出てきた時点で、ものすごく嫌な予感がした。

------・・・

昨日の夕方、施設の裏にある倉庫にボールを片付けに行った。
いつもなら他の子たちも使ってた道具を一緒に片付けに来るのだが、その日は時間ギリギリまで遊んでいて片付けにくるのが、みんなより遅くなってしまった。

急いで片付けて部屋に戻ろうとした時、声をかけられた。

「こんにちは。」

柵の向こうから、心愛ちゃんくらいのお姉ちゃんに話かけられた。

「こんにちは…。」

この前、先生が不審者について話したばっかりだったから
このお姉ちゃんともしゃべっちゃけないって最初は思った。
だから、すぐに部屋に戻ろうとした。

「待って。隼人くんからお願いがあるの。」

隼人くんからって言われて、隼人くんの知り合いなら不審者じゃないって思った。

「お願い?」

「うん。あのね、隼人くんが施設に忘れ物しちゃったんだって。とても大切なものだけど、今は忙しくて取りにいけないから代わりに取ってきてほしいって言われたの。」

「先生に聞いてこようか?」

「先生やほかのみんなには内緒にしてほしいの。」

「どうして?」

「みんなには知られたくないものなんだって。」

「隼人くんのみんなに知られたくない大切なもの、私知らない。」

「頑張って見つけてきてくれたら、あなたのお願い事かなえてあげる。」

そのお姉ちゃんはニコニコ笑いながら、なんでも叶えてくれるって言った。

「無理だよ。お姉ちゃんに私のお願い叶えられないもん。」

「どうして?どんなお願いなの?」

「…死んじゃったお父さんとお母さんに会いたい。」

「なあんだ!叶えられるお願いだよ。」

さっきまで、首を傾げていたのにまた笑ってそう言った。

「死んじゃった人には会えないよ。」

「会えるよ。知ってるよ、会える方法。」

「本当…?」

「本当だよ。みんなにばれないように見つけて持ってきてくれたら、その方法教えてあげる。」

一週間後の同じ時間に、またここに会いに来る約束をした。
その時にちゃんと見つけられたら、方法を教えてくれるって。

------・・・

女の子が部屋の中を探していたのは、隼人の大切な物を探していたからだった。
恐らく、話しかけてきたのは結衣だろう。

「ごめんなさい。ごめんなさい。」

泣きながら謝り続ける。

この女の子は、両親を事故で亡くした。
引き取ってくれる親戚なども見つからずここに来た子だ。

亡くなった人には、もう会えないことを説明しなければならないのだろうか。
残酷な事実を再確認させるようで、気が重かった。

「私、ちゃんとわかってたよ。もう、お父さんとお母さんに会えないって。…けど、会いたかったんだもん。本当は会いたいんだもん。」

心臓が握りつぶされるような感覚になった。
泣きじゃくる女の子を抱き寄せる。

「お父さんとお母さんに会いたいって、泣いたらみんな困るでしょ。私、もうお姉ちゃんだから我慢しないといけないってわかるよ。けど、けど、…」

私の怒りはピークに達していた。
この子は自分の現実とちゃんと向き合っていたのに、利用しようとして、こんなに悲しませた。
なんの関係もないこの子を苦しませた。
寂しさを必死に耐えていたのに。

自分の中にあった黒い何かに飲み込まれていくのが、わかった。