日常(仮)

え?
私たちの通路を塞いでいた女子生徒の1人が、私の背後を見てそう言った。

思わず振り返ってしまった。

「なーんちゃって。」

隼人の姿なんて、どこにもなかった。

「いい加減にしてよ。何なの?」

今までで1番怒ってるあかりの声。
冷静に静かに、怒りの感情がこもっている。

落ち着け。落ち着け。落ち着け。
わかってたでしょ、よく考えれば隼人がいないことくらい。
簡単に乗せられた自分が悪い。
落ち着け。落ち着け。落ち着け。

「あかりにばっかり言わせないで、お前もなんか言えよ。」

「隼人君がいないと何もできないの?」

下を向いていた私の肩を押した。
いつもなら痛くも痒くもないのに…。
どうして、こんなに痛いの。

周りでなにか言われてるけど、もう声なんて届かない。



ドン、ドン!!
「…ろっ、こころ!!」



窓に何かがぶつかる音がする。
そして、私のもう1つの名前を呼ぶ声。

廊下側の窓なんて歩けるところなんて、ほとんどないのに。

「…ていら、!」

外側から窓に体当たりしているていらの姿を見て目を見開く。

急いで窓を開けて、ていらを中に入れる。
突然、猫が現れて中に入ってきたため廊下にいた生徒の注目が集まる。

「なんで、そんなとこに猫いんの?」
「普通にやばくない」

驚いてる私にていらは言う。

「ただの野良猫だと思って接して。
あんまりにも腹立たしいから壁上ってきちゃったじゃない。」

「危ないことしないでよ。」

でも、ていらが現れてくれたおかげで周りが見え始めた。

「こころ、負けないよ。」

うなずいた。

「どうしたんだろうね、この猫ちゃん。」

あかりも驚いてる。
ていらのおかげで、周りが見えるようになったけど
この状況はどうしよう。

さっきまで、しつこい女子生徒たちに囲まれてたのに
今はていらが登場して廊下にいる生徒のほとんどがこっちを見てる。
他の生徒の視線、しつこい女子生徒たち、私たち。
なんとも言えない状況だ。

いろんな意味で困ってきたなあ。

「このブス女!!」

ていらは女子生徒たちに向かって暴言を吐きまくってる。
負けないとは思ったけど、どうしよう。
このまま、ていら連れて帰っちゃおうか。

「お前らが、佐藤さんたちに意地悪ばっかりするから、その猫怒って入ってきたんじゃねえの?」

「そうよ!調子乗んないでよね!」

「ほら、めっちゃ興奮してんじゃん。」

ていらの言葉を理解してくれてるかのように話す。
こんな状況の中声をかけてくれたのは、隼人と普段仲良くしてる男子生徒だった。

「は?何言ってんの?」

「自分らが普段隼人に相手にされないからって、隼人いない時に佐藤さんいじめんのは、だいぶ惨めだと思うよ。」

「ねえ?」と周りにいた生徒にも声をかける。
その声に続くように、「そうだよね」「同じ施設なんだから、仲良くて当たり前なのにね」「やりすぎだよね」と言った声が上がり始めた。

「隼人君には、結衣ちゃんがいるのに邪魔してるのは変わらないじゃん。」

周りの空気に慌てて、隼人の話題を出す。
隼人の話題が出れば、自分たちが責められてる状況から話がそれると思ったのだろうか。
ああ、確かに。なんて惨めな子たちなんだろう。

「結衣ちゃんと付き合ってるって、隼人から直接聞いたの?」

「や、そうじゃないけど…。」
「あんな風に匂わせて、そう思わない方がおかしいでしょ。」

「本当のことなんて、本人にしかわかんないのに勝手に思い込んでるのって周りのほうだと思うんだよなあ」