その日の残りは、ちゃんと授業を受けた。
相変わらず周りからの視線やヒソヒソ声は続いたが、私には耐性がある。
あかりもいる。
怖くない。
1日の授業を終えると、急いで施設に帰った。
隼人は施設にいるんじゃないかと思ったから。
急な仕事なんて本当はなくて、この炎上事件のせいで学校に行けないんだと思った。
「ただいま!!」
慌てて帰ってきたけど、一度落ち着いてから隼人を探す。
隼人がよく履いてるスニーカーが玄関にあったから、施設のどこかにいるはず。
手当たり次第にいそうな部屋を開けてく。
「心愛…?あれ、今日はやくね?」
見つけた。見つけたけど、
隼人は大きいキャリーケースに荷物をまとめていた。
「俺、事務所が用意してくれた部屋に移ることになったんだ。」
「、どうして?」
「演技のレッスンに集中したくてさ。それに、俺はもうここに頼らなくても生きていけるから…こうすべきだったんだよ。
あー、これからが楽しみ!」
「隼人、本当に頑張ってるもんね。こんなに下手くそなの初めてみたよ。」
準備を進めていた隼人の手が止まる。
「下手くそってなあ、傷つくじゃん。俺のこと嫌いかよ。」
無理に笑って話しているのがわかる。
ねえ、隼人。一回も目合わせてくれないね。
「大好きだよ。」
「…」
「誰にも負けないくらい隼人のことが好き。」
「俺は、…」
「結衣ちゃんのことが好き?」
「違う!俺が好きなのは…」
隼人が顔をあげた。
「やっと、こっち向いてくれた。」
精一杯、口角をあげる。
「炎上の話聞いた?」
「うん。」
「ごめん。」
「んーん、私は平気だよ。
けど、私は隼人が好きだから、隼人から本当のこと教えて欲しい。」
「わかった。」
隼人の準備が一通り終わってから、私たちはあの教会に移動した。
あそこなら、誰も来ないだろうから落ち着いて話ができる気がした。
「匂わせのことは、何も知らないんだ。もちろん、結衣さんと恋愛的な関係でもない。マネージャーから知らされるまで、こんなことになってるなんて知らなかった。」
「匂わせのことについて、結衣ちゃん側と話し合いにならなかったの?」
「偶然だって言われた。」
「偶然重なりすぎだと思うけど。」
「俺も思った。でね、…ビジネスカップルにならないかって提案された。」
「…」
「匂わせで話題になって、本当に自分と付き合ってるって宣言すれば仕事増えると思うって。もちろん、断ったよ。」
断ったと聞いて、安心している自分がいる。
「けど、今からすげえカッコ悪いこと言うよ?幻滅するかもよ。」
「しない。絶対。」
隼人の目をまっすぐ見て言い切る。
信じて欲しい。私のことを。今までの私たちの思い出を。
「断ったことで、俺干されるんじゃないかって超怖くなった。炎上も収まらないで、どんどん根も葉もない憶測が広がっていくし。
俺さ、最初はこの業界の仕事全然興味なかったんだ。
施設を出なきゃいけなくなった後に一人でも生きていける金が欲しくて始めた。求められてる時に頑張って金貯めて、ある程度は生きていけるように。ここを出て行く未来が怖かったから。
けど、少しずつ演技の仕事するようになってから、やりがい感じるようになって、もっと、もっとって思うようになった。この仕事好きなんだって思うようになった。
なのに、こんなことになって…逃げだしたくなった。SNSの書き込み見て、俺ってみんなからこう見られてるんだって思ったら、その言葉が頭から離れなくてさ。
弱いよな、俺。
この現状から逃げて干されるのも怖いんだよ。今この仕事なくしたら、どうやって生きて行けばいい?社会に出て失敗したら帰れる場所ないんだぜ。頼れる親もいない。求められてる間だけでいいと思ってたのに、今は失うことが怖い。好きだった仕事が嫌いになってくのも、すげー嫌で仕方ない。」
抱えていた不安や悩みが一気にあふれ出しているように感じた。
何も知らなかった。そんなふうに思ってたなんて。
いつもなんでも平気そうにこなしてて、けど、本当は一生懸命努力してる姿を見てきた。見てきたはずだった。
けど、私は隼人の綺麗な部分しか見てなかった。
「ねえ、隼人。一緒に逃げよう。隼人の怖いものが全部なくなる場所まで逃げよう。
隼人の好きな演技の仕事をするためには、ある程度の知名度は必要だと思うし、生きていくためにお金だって必要だよ。
けど、そんなにたくさんはいらないと思うんだ。
知名度も隼人のしたいことができるくらいあればいいと思うの。世界中の人に好かれる必要ないでしょ。
お金だって、毎日美味しいご飯が食べれてあったかい布団で寝られればそれで充分だと思うんだ。
だから、逃げよう。私も一生懸命働くし。十分じゃないかな?
もしもね、もしもだよ?隼人がもうちょっと頑張りたいって言うなら、私は応援する。で、隼人が逃げてこられる場所を準備して待ってるよ。隼人のこと全力で怖いものから守ってあげる。いいよ、もしその時大切な彼女がいたとしても、彼女ごと守ってあげるから。だから、安心して好きなものを選んで欲しい…と思います。」
最後のほうは自分で何がいいたいのか、わからなくなって照れてしまった。
中途半端で申し訳ない。
「頑張れって、逃げるなって言わないんだな。」
「隼人はもう頑張ってるでしょ。頑張ってる人に頑張れって言ってどうするのよ」
「そっかあ」
隼人は顔を反対側に向けて上を向いてる。
鼻水をすする音ときっと涙を隠してる音。静かな教会に響く。
その音が聞こえなくなるのを待った。
「ありがとう、心愛。」
「私は何もしてないよ。」
「や、すげえ嬉しかった。」
「どういたしまして。」
「本当は炎上のせいで施設に迷惑かかるって思ったから。事務所の部屋に移ることにしたんだけど、やっぱ寂しくなったな」
「ここにいればいいじゃん。」
「行くよ。もう少し頑張れる勇気もらえたし。」
そう言って、ニッと笑う隼人の笑顔は私がよく知る隼人の笑顔だった。
大好きな、隼人の笑顔。
この笑顔は世界を救えるレベル。
隼人をディスったSNSの住民を天に召したい。
施設で一緒に夕飯を食べた後隼人のマネージャーさんが迎えに来た。
「いつでも帰っておいで。ここが君の家なんだからね。」
「ありがとう」
施設の先生と挨拶をしている。
隼人が先生たちと挨拶をしている間にマネージャーさんが教えてくれたことがある。
『芸能界の仕事してもらう条件にね、心愛ちゃんと同じ学校に通えることって言ってきたんだよ。だから、芸能科があるとこじゃなくて無理やり普通科に進学したし。心愛ちゃんと普通の生活がしたかったんだって。
施設出ても、隼人のことよろしくね。』
「はい。」
今日は初めて知ることがたくさんあった。
ちゃんと受け止めよう。
「隼人いってらっしゃい」
「いってきます」
笑って隼人を送り出した。
私たちは、他の一般的な子たちに比べたらハンデが大きいところがあるかもしれない。
けど、同じくらい、それ以上に幸せになる権利を持つの。
だから、どうか負けないで欲しい。
卑怯な人間に彼の夢を邪魔さない。
相変わらず周りからの視線やヒソヒソ声は続いたが、私には耐性がある。
あかりもいる。
怖くない。
1日の授業を終えると、急いで施設に帰った。
隼人は施設にいるんじゃないかと思ったから。
急な仕事なんて本当はなくて、この炎上事件のせいで学校に行けないんだと思った。
「ただいま!!」
慌てて帰ってきたけど、一度落ち着いてから隼人を探す。
隼人がよく履いてるスニーカーが玄関にあったから、施設のどこかにいるはず。
手当たり次第にいそうな部屋を開けてく。
「心愛…?あれ、今日はやくね?」
見つけた。見つけたけど、
隼人は大きいキャリーケースに荷物をまとめていた。
「俺、事務所が用意してくれた部屋に移ることになったんだ。」
「、どうして?」
「演技のレッスンに集中したくてさ。それに、俺はもうここに頼らなくても生きていけるから…こうすべきだったんだよ。
あー、これからが楽しみ!」
「隼人、本当に頑張ってるもんね。こんなに下手くそなの初めてみたよ。」
準備を進めていた隼人の手が止まる。
「下手くそってなあ、傷つくじゃん。俺のこと嫌いかよ。」
無理に笑って話しているのがわかる。
ねえ、隼人。一回も目合わせてくれないね。
「大好きだよ。」
「…」
「誰にも負けないくらい隼人のことが好き。」
「俺は、…」
「結衣ちゃんのことが好き?」
「違う!俺が好きなのは…」
隼人が顔をあげた。
「やっと、こっち向いてくれた。」
精一杯、口角をあげる。
「炎上の話聞いた?」
「うん。」
「ごめん。」
「んーん、私は平気だよ。
けど、私は隼人が好きだから、隼人から本当のこと教えて欲しい。」
「わかった。」
隼人の準備が一通り終わってから、私たちはあの教会に移動した。
あそこなら、誰も来ないだろうから落ち着いて話ができる気がした。
「匂わせのことは、何も知らないんだ。もちろん、結衣さんと恋愛的な関係でもない。マネージャーから知らされるまで、こんなことになってるなんて知らなかった。」
「匂わせのことについて、結衣ちゃん側と話し合いにならなかったの?」
「偶然だって言われた。」
「偶然重なりすぎだと思うけど。」
「俺も思った。でね、…ビジネスカップルにならないかって提案された。」
「…」
「匂わせで話題になって、本当に自分と付き合ってるって宣言すれば仕事増えると思うって。もちろん、断ったよ。」
断ったと聞いて、安心している自分がいる。
「けど、今からすげえカッコ悪いこと言うよ?幻滅するかもよ。」
「しない。絶対。」
隼人の目をまっすぐ見て言い切る。
信じて欲しい。私のことを。今までの私たちの思い出を。
「断ったことで、俺干されるんじゃないかって超怖くなった。炎上も収まらないで、どんどん根も葉もない憶測が広がっていくし。
俺さ、最初はこの業界の仕事全然興味なかったんだ。
施設を出なきゃいけなくなった後に一人でも生きていける金が欲しくて始めた。求められてる時に頑張って金貯めて、ある程度は生きていけるように。ここを出て行く未来が怖かったから。
けど、少しずつ演技の仕事するようになってから、やりがい感じるようになって、もっと、もっとって思うようになった。この仕事好きなんだって思うようになった。
なのに、こんなことになって…逃げだしたくなった。SNSの書き込み見て、俺ってみんなからこう見られてるんだって思ったら、その言葉が頭から離れなくてさ。
弱いよな、俺。
この現状から逃げて干されるのも怖いんだよ。今この仕事なくしたら、どうやって生きて行けばいい?社会に出て失敗したら帰れる場所ないんだぜ。頼れる親もいない。求められてる間だけでいいと思ってたのに、今は失うことが怖い。好きだった仕事が嫌いになってくのも、すげー嫌で仕方ない。」
抱えていた不安や悩みが一気にあふれ出しているように感じた。
何も知らなかった。そんなふうに思ってたなんて。
いつもなんでも平気そうにこなしてて、けど、本当は一生懸命努力してる姿を見てきた。見てきたはずだった。
けど、私は隼人の綺麗な部分しか見てなかった。
「ねえ、隼人。一緒に逃げよう。隼人の怖いものが全部なくなる場所まで逃げよう。
隼人の好きな演技の仕事をするためには、ある程度の知名度は必要だと思うし、生きていくためにお金だって必要だよ。
けど、そんなにたくさんはいらないと思うんだ。
知名度も隼人のしたいことができるくらいあればいいと思うの。世界中の人に好かれる必要ないでしょ。
お金だって、毎日美味しいご飯が食べれてあったかい布団で寝られればそれで充分だと思うんだ。
だから、逃げよう。私も一生懸命働くし。十分じゃないかな?
もしもね、もしもだよ?隼人がもうちょっと頑張りたいって言うなら、私は応援する。で、隼人が逃げてこられる場所を準備して待ってるよ。隼人のこと全力で怖いものから守ってあげる。いいよ、もしその時大切な彼女がいたとしても、彼女ごと守ってあげるから。だから、安心して好きなものを選んで欲しい…と思います。」
最後のほうは自分で何がいいたいのか、わからなくなって照れてしまった。
中途半端で申し訳ない。
「頑張れって、逃げるなって言わないんだな。」
「隼人はもう頑張ってるでしょ。頑張ってる人に頑張れって言ってどうするのよ」
「そっかあ」
隼人は顔を反対側に向けて上を向いてる。
鼻水をすする音ときっと涙を隠してる音。静かな教会に響く。
その音が聞こえなくなるのを待った。
「ありがとう、心愛。」
「私は何もしてないよ。」
「や、すげえ嬉しかった。」
「どういたしまして。」
「本当は炎上のせいで施設に迷惑かかるって思ったから。事務所の部屋に移ることにしたんだけど、やっぱ寂しくなったな」
「ここにいればいいじゃん。」
「行くよ。もう少し頑張れる勇気もらえたし。」
そう言って、ニッと笑う隼人の笑顔は私がよく知る隼人の笑顔だった。
大好きな、隼人の笑顔。
この笑顔は世界を救えるレベル。
隼人をディスったSNSの住民を天に召したい。
施設で一緒に夕飯を食べた後隼人のマネージャーさんが迎えに来た。
「いつでも帰っておいで。ここが君の家なんだからね。」
「ありがとう」
施設の先生と挨拶をしている。
隼人が先生たちと挨拶をしている間にマネージャーさんが教えてくれたことがある。
『芸能界の仕事してもらう条件にね、心愛ちゃんと同じ学校に通えることって言ってきたんだよ。だから、芸能科があるとこじゃなくて無理やり普通科に進学したし。心愛ちゃんと普通の生活がしたかったんだって。
施設出ても、隼人のことよろしくね。』
「はい。」
今日は初めて知ることがたくさんあった。
ちゃんと受け止めよう。
「隼人いってらっしゃい」
「いってきます」
笑って隼人を送り出した。
私たちは、他の一般的な子たちに比べたらハンデが大きいところがあるかもしれない。
けど、同じくらい、それ以上に幸せになる権利を持つの。
だから、どうか負けないで欲しい。
卑怯な人間に彼の夢を邪魔さない。
