棗に会ったのは、
もう何年も前のことー




「…ただいまあ」


ガラガラと古びた扉を開く。
当時アタシは、1人のおじいさんと住んでいた。


いつものように挨拶するも、返事がない。



「…ん?」



玄関に、見慣れない靴が3足。
誰のだろう?お客さん?



「おお佐治、帰ってきたか。
今姉さんたち達が帰ってきてるよ」

「え!姉さん!?」


靴を脱ぎ捨て、居間に向かう。


そこには2人の男女が座っていた。



「ね、姉さんだ…!どこに行ってたの!」

「会いに来るのが遅くなってごめんね、佐治」



泣きそうになるのを堪え、姉に抱きつく。


アタシの姉さんは、恋人と駆け落ちして、
行方知れずになっていた。


ああ!何年ぶりなんだろう!



「…久しぶり、佐治くん」

「お久しぶりです!」



横に座っていた姉の恋人ー今は夫である彼が、アタシにそっと声を掛けてきた。


姉の幸せが最優先だったアタシは、
彼のことを恨んじゃいない。


まあけど、彼は居心地が悪いんだろうな。




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