嫌いなあいつの婚約者!?

「桜っ」

「りょ、涼?」

 ノックもしないでいきなり扉を開けて入ってきたのは、涼だった。

「風邪、引いたって?」

 少し息が上がっていて、急いできたことが分かる。私のため? 冷たくしたのは私なのに。

「そう、だけど……、どうして?」

「それはいいんだよ。倒れるの、2度目じゃないか」

「そうね……今回は風邪だし、近付かない方がいいわよ。移っちゃうから」

「昔から、桜が風邪で倒れたときは隣にいるんだ。…………って、どうしたの? 桜」

 分からない。自分が今どんな気持ちでいるのか、自分でもよく分からない。

 ただ、涙が自然と出てきて落ちていく。

 悲しくないし、辛いわけでもないし、だからといって嬉し涙でもない。

 ああ、分かった。…………落ち着くんだ。

「これで、拭いて?」

「ありがとう」

 いい匂いがする。柔らかくて、暖かくて、優しい匂い。

「……桜、今度の誕生日パーティー…………いや、なんでもない」

 涼はそれっきり黙ってしまった。

 パーティーがどうしたの?

 そんなところで話が切れてしまったら、気になるじゃない。





「そろそろ、帰るよ」

「……うん、あ、あの。…………ありがとう」 

 私の今の気持ちを表すのは、それを言うのが精一杯だった。

「どういたしまして」

 涼は笑って言った。どうして笑っているの?

 私は、また涙が出て来そうなのに。