嫌いなあいつの婚約者!?

「だから、私のことはもう諦めて」

 胸が痛い。

 なんで、自分で言ってて自分で傷付いているのよ。別にいいじゃない。これが私の本心なのだから。

「……分かった。桜がそこまで言うってことは、奏多さんにかなり本気なんだね?」

「そうよ」

 言い切った。ううん、言い切ることができた。

「分かった。もう、桜に馴れ馴れしくしたりもしない」

 涼は飲みかけのコーヒーを残して部屋から出ていく。

 コーヒーの匂いが、寂しく香る。

 静かにパタンと音を立てながら扉が閉まった。

「これで、いいんだもん……」

 涼の行ってしまった方は向かない。もうそこに涼がいないと分かっていても、そっちに目は向けない。

 でも、なんだろう。

 なんでこんなに胸に穴が開いたような気持ちになるんだろう。

 ううん、忘れる。涼のことなんて忘れる。

「桜さま、焼きたてのパンお持ちしました」

「あ、ありがとう」

 大好物のレーズンのパン。一口食べる。いつもなら美味しい美味しいと思いながら食べるのに、今日は味がしない。

 違う、するんだけれど前ほど美味しく感じない。

 舌がおかしくなってしまったのかと思って「これいつもと違うパンかしら?」と聞くと「いえ、いつもと同じですよ」と答えが返ってきた。