嫌いなあいつの婚約者!?

 今日から夏休みということで、いつもよりも遅い時間にメイドが起こしに来た。夏休みのこの余裕のある朝は、やっぱりどこの世界にいても気持ちがいい。

 今日はなんのフルーツを食べようかしらと部屋を移動したとき、涼の姿が目に入ってくる。

「涼、もう婚約者じゃないんだから来なくていいのに」

「桜」

 それは、昨日とは違う話し方。

「……もしかして、戻ってきたの?」

 涼はいつの間にか入れ替わっていて、元の世界に戻ってきていた。

「まあ、僕はこっちの家の跡取りでもあるし、向こうにはずっといられないよ」

「でも……桜と一緒にいられるのよ? あっちにいれば」

「桜はいるじゃないか、目の前に」

「そうじゃなくて……あなたの好きな桜のこと」

 なんでいちいち声に出さないといけないの。

「僕の好きな桜?」

「そう、女の子らしい桜よ。私は桜は桜でも、違う桜なの。あなたの好きな桜じゃない」

「僕は……桜、君が好きだよ。桜は桜だ。どんな桜でも好きだ」

 そんなわけがない。今はまだ少しの間しか過ごしていないから分からないだけで、そのうちきっとやっぱり違うって思うに決まっている。

「私は奏多さんが好き」

 はっきりと、ゆっくり涼に、そして自分に言い聞かせるように言った。

「知ってる」

「じゃあ」

「それなら、僕を好きになってもらうように努力する」

「……もう、知らない。勝手にして」