嫌いなあいつの婚約者!?

 休日が来た。

 初めてここに来た時からもう5日が経つけれど、元の世界に戻れる気配はなく、だけど案外ここの生活を楽しんでいる自分がいて、まあいいかと思っていた。

 遅めの朝食を食べるために、今ではもう慣れてしまったあの広い部屋へと足を運ぶと、休日なのにやっぱり涼の姿がある。

 私の姿を確認すると、いつも通りに声を掛けてくる。

「おはよう、桜」

「お、おはよう」

 優しげな涼に、まだ違和感を覚えてしまう。

 同じ顔なのに、表情ひとつでこうも違うものなのかと感心してしまうほど。

「今日は、街に行かないかい?」

「街?」

「そう、散歩のついでに」

「ええ、いいわね」

 涼と休日に2人で出掛けるなんて、いつぶりだろうか。

 記憶を辿ってみるけれど、それは幼い日の自分たちの姿であり、小学生以降の思い出はなかった。

「あ、あの」

 好きな子のことについては、本人に聞くのが一番手っ取り早い。

「ん? あ、ついてるよ、ジャム」

 ここ、と自分の右側の口元を指差す涼。

 その表情があまりにも柔らかくて優しくて、心臓が早く動く。

 まるで、春風が吹いているときのような暖かさを感じて、魂が涼に惹きつけられそうになる。

 涼にドキドキするなんて、こんな感情を抱いてしまうなんて、私らしくない。

「ありがとう……」

「どういたしまして」