嫌いなあいつの婚約者!?

「ねえ、何かストレス発散できるものないかしら?」

「桜さま、どうかされましたか?」

「いいから、とにかくすかっとするもの」

 この心の中に増えすぎたもやもやをとにかく発散したい。山の頂上に行って「わーっ」と叫んだり、思いっきり花瓶をたたき割ったり。

「それでは桜さま。これにお着換えください」

 と、渡されたものはジャージだった。それと、スニーカー。

「私もお供しますよ」

 2人でジャージ姿になって、建物の外に来るとメイドは「さあ」と言って準備体操をし始めた。私もそれに合わせて、体を大きく思いきり動かす。

 少しだけ、気分が向上してきた。

「こういう時は、思いっきり走りましょう」

「走る?」

「はい、すかっとしたい時は運動が1番ですから。思いっきり全速力で走るんです」

 庭の端から端までを風のごとく走る。何度も何度も往復して、これでもかというくらい走る。息が上がってくる。

 もう空は大分暗くなって、庭をほんのりとした明かりが照らした。

 赤や黄色の花が薄暗い中に浮いて見えて、これはこれで違った花の顔が見えるようで新鮮だった。

 昼の華やかな花じゃなくて、夜近くの花はどこか寂しげでそれがより美しさを増す。

 汗とともに、涙が出そうになった。

「はあ、はあ……。流石に、疲れたわ」

「どうですか? 気分は」

「そうね、大分すっきりしたわ。お腹も空いてきたし。いつもよりも美味しく食べられそう」

「それでは、シャワーを浴びてディナーにしましょうか」

「ええ、そうしましょう」

 額に掻いた汗と共に、ストレスの一部が流れていくような気がした。