嫌いなあいつの婚約者!?

「夢……か」

 そうだ、涼といえば今の夢のように昔から嫌がらせばかりするようなやつで、小さい頃から本当に苦労したんだから。

 思い出すと、だんだんと腹が立ってくる。

 この世界の涼が少し優しいからって、あっちの世界の涼に嫌がらせをされていた事実はなにも変わらない。

 嫌な思い出ほど、脳内にこびりついて離れないんだから。

『世界が変われば、人が変わるのは当たり前じゃない? 彼は彼であって、彼じゃないのよ』

 だけど、どこからかそんな声が聞こえてくるような気がして、私は一旦ベッドから出ると冷たい水で顔を濡らした。

「もう、考えないようにしよう……」

 カーテンを開けて窓の外を見ると、ちょうど朝日が昇るところで海と空が明るくなってくる。

 ぐうっと、お腹が鳴った。

 悩んでいても空腹になる自分の体に、ふふっと笑いが漏れる。

「そういえば、冷蔵庫の中にキッシュがあったような」

 昨日カフェでテイクアウトして、食べずに取っておいたほうれん草と海老のキッシュ。

 ついでにお湯も沸かして、紅茶を淹れる。

 ふわっと、アールグレイの独特な香りが部屋の中に広まって、だんだんと頭も冴えてくる。

「今日は、何の授業にしようかな。午後は料理だから…………あ、これいいかも」

 マナー講座と書かれた文字に目を惹かれる。

 この世界に来て1週間の間に、何度マナーの注意をされたことか。記憶喪失にでもなったんですか、なんて言われたときにはなんて答えたらいいか分からずに黙ってしまって余計に不審な目でメイドに見られ。

 今までそんなのほとんど気にして生きてきたことが無かったから、本当に大変。

 ちょうどいい時間だし、こうなったらここでマナーを一通り学ぼうかしら。