嫌いなあいつの婚約者!?

「桜っ、どこ行くの?」

「ちょっと、走りたい気分なの」

 走ると、心臓がバクバクと動いて息苦しくなる。

 最近、車生活だったから大分体力が落ちているのかもしれない。

 少し離れたところで走るのをやめて涼を見ると、空を見て微笑んでいた。

 月の明かりに照らされて、夜なのにはっきりとその表情が見える。

 まるで、月が彼を照らしているように見えて指でフレームを作ってその中に涼を収めた。

「杏里のことを想って、夜の空を見ているの?」

 距離があって、涼に私の声は聞こえないはずなのに、言い終えた後に空を見ていた目が、私を捉える。こっちに向かって、ゆっくりと歩いてくる。

「桜は、奏多さんが好きなの?」

「う、うん……」

「そっか、……ごめんね」

「なんで、謝るの?」

「婚約者だから。せっかくの桜の恋、邪魔してる」

 そんなことない、心がそう叫ぶ。

 だけど、それを声にする勇気がなくて私は黙ってしまった。

「戻ろう?」

「うん…………」

 本当は、あなたの手を差し伸べて欲しい。

 戻ろう、という言葉と共に私の手を握って欲しい。

 だけどそれは現実にはならなくて、潮の匂いを乗せた風が私と涼の間を走っていった。

「あ、そうだ。これ、苺のネックレス。ホテルの中散歩してる時にたまたま見つけたんだ」

 石で作られた可愛らしい苺が、月の光を反射してきらんと光る。

 まるでハートのような苺の石。

 他の人を好きだという私なんかに、勿体なさすぎる。
 
「涼」

「ん?」

「ありがとう」

「うん」