嫌いなあいつの婚約者!?

授業が始まった。

 目の前にいるパティシエは、どこかの有名ホテルのスイーツ部門の担当のものらしく、相当な腕を持っているとのこと。

 そんな人をたかが学生のために講師に呼ぶことのできるこの学校って、やっぱり桁違い。

「桜、包丁で指切ったりしないように気を付けてね」

「涼もね」

「うん」

 パティシエの言う通り、1グラムすら誤らないように慎重に計量して、色艶や形の良いそのままでも十分美味しいであろう果物をカットしていく。

 メロンの次は大好きな苺。

 真っ赤な苺は、見ているだけでその甘さが口の中に広まる。

 1つだけならと、ルビーのように輝く苺をぱくっと口の中に入れて噛むと、思った以上の甘さにんんっと声が出てしまう。

 苺界のダイヤモンドと言ってもいいくらい。

「桜、つまみ食い」

「だ、だって、美味しそうだったから」

「じゃあ、もう1つどうぞ」

 と、恥ずかしげもなく私の口元に苺を近付ける。

 こ、これは…………あーんと食べる以外の選択肢がどこにあるだろうか、いや、ない。

 涼は笑みを浮かべて、顔を斜めに傾けて私の顔を見ている。

 確信犯…………いや、多分違う。多分、何も考えたいなだけだと思うけれど、だからこそたちが悪い。

「食べないの?」

「た、食べるよ」

 涼の指に唇が触れてしまわないように先端の部分だけを噛む。

「残りは僕が食べるよ」

 涼は戸惑うことなく残りの苺を口に放り込んだ。

 い、いくら婚約者だからといって好きでもない人の食べかけの苺を食べるなんて、涼は何を考えているの?

「フルーツの飾り、だね。次」

「う、うん」

 ああ、もう。涼のペースにどんどんと引きずり込まれてしまうのに、それに抗う術を知らなくて、自分だけがあたふたとしてしまってカッコ悪い。

 落ち着こう。

 ほら、ここから見える海のエメラルドグリーンに、太陽でキラキラと輝く水。

 木々の葉たちも、太陽のおかげで生き生きとして見えて、その木に成っている実も、このキッチンにある果物と同じくらい美味しそうに見える。

 視線をスイーツに戻して、さて、タルトに集中しよう。