嫌いなあいつの婚約者!?

 朝学校に着いて、早速奏多さんのクラスに来た。

 中の人にあまり見られないように、顔だけを教室に覗かせる。

 あ、いた。

 奏多さんはまだ私に気付いていない。

 名前を呼ぼうとした時、女の人が奏多さんに話しかける。

 あの人のこと、知っている。一度だけ会ったことがあるけど…………その内容までは思い出せない。

 でも、彼女の表情を見ればなんとなくわかった。

 彼女は奏多さんのことが好きなんだ。

 彼女が奏多さんを見る目が、優しい。好きな人に向ける目。

 愛おしくて、そばにいるだけで笑顔になれて。

 私だって、記憶がなくなっても恋する気持ち自体は忘れていない。だから、分かるの。

 きっと、私なんかよりも前から奏多さんのことを知っていて、私よりも何倍も好きな気持ちが大きい。

 だって、ほら。あんな風に好きな人の前で自然に笑っているもの。

 彼女の手が奏多さんの腕に触れる。奏多さんはそれを素直に受け入れる。

 そこに、私の入る隙なんてない。

 記憶がなくなってしまった今、私が奏多さんの隣にいる意味ってなんだろう。

 涼くんも奏多さんも、近くに自分のことを想ってくれる誰かがいて、すべてを忘れてしまった私なんかよりもその人たちといる方がきっと心が満たされる。

 好きだと言ってくれるけど、きっと本心はもっと別なところにあって、きっと同情で接してくれているんだ。

 そうだよ。だって、私がもし2人の立場になったら、好きな人に自分の存在を忘れられたら、そんなの辛すぎる。

 泣いても泣いても気持ちなんて晴れるわけがない。

 だから、中途半端に接するくらいなら、自分から離れた方がいい。

 涼くんからも奏多さんからも。

 記憶がないのに好きな人がそばにいて、前は自分のことを想っていたのに今は違うだなんて、それは残酷すぎるもの……。