嫌いなあいつの婚約者!?

 メイドは早速キッチンに連れて来てくれて、なにやらレシピの紙をどこからともなく出してきた。

「ステンドグラスクッキーを作りましょう」

「ステンドグラス?」

「ええ、見た目がすごく可愛いんですよ。…………どなたかにあげるんですか?」

「奏多さんに、あげるの」

「そうですか……。奏多さんに、あげるんですね」

 何か、含みのある言い方がとてつもなく気になる。奏多さんにあげるって、あまり喜ばしくないことなのかしら……。

「ダメかしら……?」

「いえ、全然そんなことないですよ。ただ…………いえ、なんでもないです」

「もしかして、涼くんに関係あるの?」

「どうしてそう思うんですか?」

「なんとなく……」

 少しの沈黙の後、メイドは言葉を紡ぎ出した。

「…………桜さまは、なんだかんだ涼さまのことを慕っていると思っていましたので……。でも、記憶が無くなってもなお奏多さまに惹かれているのなら、それが本当の気持ちなんでしょうね」

「ええ……そうよ」

 本当の気持ちなんて、分からない。自分でも分からない。でも、奏多さんを裏切るなんてこと、私にはできない。あんなにいい人を。

「じゃあ、心を込めて作りましょうね」

「そうね」

 お菓子作りをしていると、なんだかとても懐かしい気持ちになる。

 そういえば、奏多さんが言っていたタルトって、私どこで作ったのかしら?

「ねえ、タルト、私ここで作ったことってある?」

「いえ、ないですね。多分、校外学習で作られたんじゃないですか?」

「校外学習……タルト……」

 クッキーの生地を練りながら思い出そうとするも、全く出てこない。校外学習の記憶はところどころある。ほとんど杏里との思い出だけど。