嫌いなあいつの婚約者!?

「涼くんのこと、考えてたの?」

 杏里は、柔らかく笑う。奏多さんがいるのに涼のことを考えてしまう私のことを侮辱するような目なんて全くなくて、まるで聖母のような瞳をしていた。

 杏里から聞かれると、素直に答えなくちゃという気になる。

 杏里に言われると、なんだか心の底の気持ちが浮いてきそうになる。

 本当の自分の気持ち。でも、分からない。本当の私の気持ちって?

「ただ、目が合って……」

「仕方ないわ。ずっと、2人は一緒だったんだから。急に他人になるのも簡単じゃないし……」

「そうね……」

 他人になる。私と涼が。

 この世界の涼じゃなくても、私の隣にはずっと涼がいた。

 嫌な思いでしかないけれど、ううん、ちゃんと思い出せばそうでもないかもしれない。

 かけっこをしていて転んで泣いてしまった時、涼は小さな花を私に渡してきて励まそうとしてくれた。他にも、いろいろあった。嫌な思い出だけを私はいつも思い出してしまっていたんだ。

 そんな思い出をなかったことにしてしまおうとしている?

「他人って…………寂しいね」

「そうね、寂しいわ」