攻撃魔法の練習の時、私はいつもあの日のことを考えてしまう。あの子の血で染まった私の氷を。真っ白になったあの子の顔を。
そっか、だから私はできなかったんだ。
「私は、怖い。
また、私の魔法が誰かを傷つけたらって考えると怖くて怖くてしかたないの。」
「そっか」
でも、その恐怖に打ち勝たないと、クラーレでは働けない。治癒師になりたいなら、あの日を乗り越えなければ。でも、どうやって?だって私は、あの日感じた恐怖以上の強い感情を知らない。
「俺は、魔力は心の鏡だと思ってる。
強い心を持っていれば魔力はそれに答えるように強い魔法となって現れる。
だから、心が不安定だと魔力も不安定になる。」
「なにそれ、初めて聞いた」
「ただの俺の意見だからね」
魔力は心の鏡
悪人の使う魔法は他を傷つける刃となり、守るための魔法は他を救う盾となる。
ライアントのその言葉はスッと私の中に入り込んだ。
ライアントの癖に、良いことを言うじゃないか。
「レイティスは、どうして今攻撃魔法を使いたいの?」
どうして?そんなこと決まってる。
「夢を叶えたいから。治癒師になって、クラーレで働いて、この風の王国の人たちを癒したいから。」
そう、きっかけは単純だった。
仕事柄、いつもボロボロになって帰ってくるお父さんを癒したい。そう思ったのが夢の始まり。
そしてだんだん夢は膨らみ、今はどんな怪我でも治せるような最高の治癒師になりたい。そう思うようになった。
私の気持ちを聞いたライアントには、いつものニヤニヤとした馬鹿にしたような笑みはなかった。目を細め、口は弧を描き、今まで見たことないとても穏やかな笑顔だった。不覚にも、少し胸が高鳴った自分に腹が立つ。
「じゃあ、それを強く考えていたらいいよ。その強い気持ちがあれば、君にだって攻撃魔法が使える」
細められた深い緑の瞳を見つめ返し、小さく頷く。
迷いは消えた。私は守るため、救うために魔法を使う。それは治癒だろうと浮遊だろうと補助だろうと。そして、攻撃だろうと。
ライアントが見守るなか、私は右手を前に出す。目を閉じて心を落ち着かせる。魔力を込め、氷の柱をイメージする。場所は私の手から10メートル以内、数は5、私の前方にのみ出現させる。
すると私とライアントのいる自習室は冷気で包まれる。
今なら、できる気がする。
私はクラーレで働きたい。
私は風の王国中の人を癒したい。
私は最高の治癒師になりたい。
私はできる、攻撃魔法は使えるはずなの。だからお願い。答えて、私の氷の魔力。
「アイシクル!」
呪文を唱えた。
その瞬間、私の前方10メートル以内に5本の鋭い氷の柱が出現した。辺りはまだ、魔力を帯びた冷気に包まれたままだ。
…やっ…た?やったのか?これは成功という事で良いのだろうか。
久しぶりの攻撃魔法の感覚に混乱しながらも、ゆっくり後ろを振り返る。そこには氷の柱は一本も生えておらず、数歩先にはニヤリと笑うライアントの姿。
「できたじゃん。」
ニヤリと笑う奴はそう一言呟いた。
そんな奴の元へ、一歩また一歩と近づいていく。悔しい、ああ悔しい。こんなことをこいつに言うときが来るなんて。プライドはもうズタズタだ。でも、こいつのお陰で攻撃魔法が使えた。悔しいけどこいつのお陰。
ライアントの目の前まで来て足を止める。顔をあげればすぐそこに金色の髪と深緑の瞳がある。
「ちょっとあっち向いて!」
「ちょ…何するの」
こいつに面と向かって言える自信がなくて、ライアントの腕を力一杯引っ張り体を反転させる。私はライアントの背に額をつけ、両手を添える。ベビーブルーの髪と金色のそれが混ざり合う。
いっつも私を馬鹿にして、ニヤニヤ笑って、嫌味ばっかり言ってくるムカつく奴だけど。でも今は…
「───あんたのお陰よ。ありがとう、ライアント。」
それだけ告げると、私は奴の背から急いで離れ、そのまま逃げるように自習室をあとにした。
帰り道、箒に乗って思う。
───クラーレで働き始めたら、ライアントのことも治してあげよう。
そっか、だから私はできなかったんだ。
「私は、怖い。
また、私の魔法が誰かを傷つけたらって考えると怖くて怖くてしかたないの。」
「そっか」
でも、その恐怖に打ち勝たないと、クラーレでは働けない。治癒師になりたいなら、あの日を乗り越えなければ。でも、どうやって?だって私は、あの日感じた恐怖以上の強い感情を知らない。
「俺は、魔力は心の鏡だと思ってる。
強い心を持っていれば魔力はそれに答えるように強い魔法となって現れる。
だから、心が不安定だと魔力も不安定になる。」
「なにそれ、初めて聞いた」
「ただの俺の意見だからね」
魔力は心の鏡
悪人の使う魔法は他を傷つける刃となり、守るための魔法は他を救う盾となる。
ライアントのその言葉はスッと私の中に入り込んだ。
ライアントの癖に、良いことを言うじゃないか。
「レイティスは、どうして今攻撃魔法を使いたいの?」
どうして?そんなこと決まってる。
「夢を叶えたいから。治癒師になって、クラーレで働いて、この風の王国の人たちを癒したいから。」
そう、きっかけは単純だった。
仕事柄、いつもボロボロになって帰ってくるお父さんを癒したい。そう思ったのが夢の始まり。
そしてだんだん夢は膨らみ、今はどんな怪我でも治せるような最高の治癒師になりたい。そう思うようになった。
私の気持ちを聞いたライアントには、いつものニヤニヤとした馬鹿にしたような笑みはなかった。目を細め、口は弧を描き、今まで見たことないとても穏やかな笑顔だった。不覚にも、少し胸が高鳴った自分に腹が立つ。
「じゃあ、それを強く考えていたらいいよ。その強い気持ちがあれば、君にだって攻撃魔法が使える」
細められた深い緑の瞳を見つめ返し、小さく頷く。
迷いは消えた。私は守るため、救うために魔法を使う。それは治癒だろうと浮遊だろうと補助だろうと。そして、攻撃だろうと。
ライアントが見守るなか、私は右手を前に出す。目を閉じて心を落ち着かせる。魔力を込め、氷の柱をイメージする。場所は私の手から10メートル以内、数は5、私の前方にのみ出現させる。
すると私とライアントのいる自習室は冷気で包まれる。
今なら、できる気がする。
私はクラーレで働きたい。
私は風の王国中の人を癒したい。
私は最高の治癒師になりたい。
私はできる、攻撃魔法は使えるはずなの。だからお願い。答えて、私の氷の魔力。
「アイシクル!」
呪文を唱えた。
その瞬間、私の前方10メートル以内に5本の鋭い氷の柱が出現した。辺りはまだ、魔力を帯びた冷気に包まれたままだ。
…やっ…た?やったのか?これは成功という事で良いのだろうか。
久しぶりの攻撃魔法の感覚に混乱しながらも、ゆっくり後ろを振り返る。そこには氷の柱は一本も生えておらず、数歩先にはニヤリと笑うライアントの姿。
「できたじゃん。」
ニヤリと笑う奴はそう一言呟いた。
そんな奴の元へ、一歩また一歩と近づいていく。悔しい、ああ悔しい。こんなことをこいつに言うときが来るなんて。プライドはもうズタズタだ。でも、こいつのお陰で攻撃魔法が使えた。悔しいけどこいつのお陰。
ライアントの目の前まで来て足を止める。顔をあげればすぐそこに金色の髪と深緑の瞳がある。
「ちょっとあっち向いて!」
「ちょ…何するの」
こいつに面と向かって言える自信がなくて、ライアントの腕を力一杯引っ張り体を反転させる。私はライアントの背に額をつけ、両手を添える。ベビーブルーの髪と金色のそれが混ざり合う。
いっつも私を馬鹿にして、ニヤニヤ笑って、嫌味ばっかり言ってくるムカつく奴だけど。でも今は…
「───あんたのお陰よ。ありがとう、ライアント。」
それだけ告げると、私は奴の背から急いで離れ、そのまま逃げるように自習室をあとにした。
帰り道、箒に乗って思う。
───クラーレで働き始めたら、ライアントのことも治してあげよう。

