卒業試験は一週間後、それまでにどうにか攻撃魔法を発動できるようにならなくては。
それから毎日、放課後は自習室でリリアに付き合ってもらい、攻撃魔法の練習をした。試験の合格基準は明かされていないので、教師陣がどんな攻撃魔法を求めているのかはわからないが、とりあえず一つは攻撃魔法を使えるようにならなければ。
そう、思っていたのだが。
卒業試験を明日に控えたその日。私は未だに一つの攻撃魔法さえ出すことができずにいた。
「…どうしよう」
魔法を使うイメージも、込める魔力も、呪文も全てあっているのにやっぱり魔法は発動しない。
試験は明日なのに、やっぱり私はこのまま不合格になって留年して、クラーレで働けなくなってしまうのだろうか。
「シャリー…大丈夫?」
「…あんまり大丈夫じゃないかも」
落ち込む私の頭をリリアはわしゃわしゃと撫でる。
「ごめんね、シャリー。
うち今日両親とも出張で…弟たちの夜ご飯とかも私が作らなきゃいけないの。だから、今日はもう帰らなきゃ」
「そっか、もうそんな時間か…」
気づけば窓の外はオレンジ色に染まり、校舎に残る生徒の気配もほとんど感じない。
リリアの両親は夫婦でベルクというファッションブランドを立ち上げていて、毎日忙しそうにはたらいている。そのため両親は出張が多く、まだ幼い弟たちがいるからそんなに長くは学校に残っていられなかった。
そんなリリアが、放課後に練習に付き合ってくれていることに感謝してもしきれない。
「遅くまで付き合ってくれてありがと、リリア。あとは一人で頑張ってみるよ」
「ほんとにごめんね。シャリーもあんまり無理しないでね」
「うん、わかってるよ」
リリアは何度も振り返っては『ごめんね』振り返っては『ごめんね』を繰り返し、五回ほど繰り返したところでとうとう姿が見えなくなった。
一人になった自習室で、大きく息を吐く。
もう無理だ、諦めてしまおうか。一人ぼっちになった心細さから、私の心は折れてしまいそうになる。空色の瞳からはじわじわと涙がにじむ。
泣くな、泣くなシャルマリー。こんな惨めな姿を誰かに見られたらどうする。泣き止め、泣き止め。
どんなに自分に言い聞かせても、駄目だった。私の瞳から溢れる滴は止まらなくて、自習室の床を濡らしていく。
私はもう、クラーレでは働けない?ずっと治癒師になりたかったのに、もうなることは叶わない?
私は力が抜けたようにぺたんとその場に座り込み、濡れた床を見つめた。
夕暮れの自習室に風が吹き抜けた。窓も開いてないのに一体何処から…揺れるベビーブルーの髪を抑えながら辺りを見回す。
「あれ、君まだいたの?」
聞き覚えのある声がした。大声を出しているわけではないのにこの声は辺りによく聞こえる。少し低めの通る声。
まさか、この声は…
恐る恐る後ろに振り返ると、金の髪を風になびかせた男の、深い緑の瞳と目があった。
そこにいたのは、私が今一番会いたくない人物。ベルティア ライアント その人だった。
私は急いで頭の向きをもとに戻す。何故奴がここにいるのか。
一体何しにここに来たのか。いや、それよりも。
私の瞳や頬は未だ涙に濡れたままだ。そんな惨めな姿をよりにもよって一番見られたくない奴に見られてしまった。最悪だ、絶対に馬鹿にされる。結局攻撃魔法は使えなかったんだ、へぇー。じゃあ留年だ。おめでとう。
そんな嫌味が聞こえてくるようだった。
「試験は明日だけど、攻撃魔法は使えるようになった?」
案の定そんな問いかけをされる。うるさい、どうせ最初から分かってたんだろ。私には攻撃魔法が使えないことが。
悔しくて拳を強く握りしめる私。
「…使えなかった」
「やっぱりね」
僅かに声が震えた気がする。それもそうだ、床を濡らすほど涙を流したのだから。
それから毎日、放課後は自習室でリリアに付き合ってもらい、攻撃魔法の練習をした。試験の合格基準は明かされていないので、教師陣がどんな攻撃魔法を求めているのかはわからないが、とりあえず一つは攻撃魔法を使えるようにならなければ。
そう、思っていたのだが。
卒業試験を明日に控えたその日。私は未だに一つの攻撃魔法さえ出すことができずにいた。
「…どうしよう」
魔法を使うイメージも、込める魔力も、呪文も全てあっているのにやっぱり魔法は発動しない。
試験は明日なのに、やっぱり私はこのまま不合格になって留年して、クラーレで働けなくなってしまうのだろうか。
「シャリー…大丈夫?」
「…あんまり大丈夫じゃないかも」
落ち込む私の頭をリリアはわしゃわしゃと撫でる。
「ごめんね、シャリー。
うち今日両親とも出張で…弟たちの夜ご飯とかも私が作らなきゃいけないの。だから、今日はもう帰らなきゃ」
「そっか、もうそんな時間か…」
気づけば窓の外はオレンジ色に染まり、校舎に残る生徒の気配もほとんど感じない。
リリアの両親は夫婦でベルクというファッションブランドを立ち上げていて、毎日忙しそうにはたらいている。そのため両親は出張が多く、まだ幼い弟たちがいるからそんなに長くは学校に残っていられなかった。
そんなリリアが、放課後に練習に付き合ってくれていることに感謝してもしきれない。
「遅くまで付き合ってくれてありがと、リリア。あとは一人で頑張ってみるよ」
「ほんとにごめんね。シャリーもあんまり無理しないでね」
「うん、わかってるよ」
リリアは何度も振り返っては『ごめんね』振り返っては『ごめんね』を繰り返し、五回ほど繰り返したところでとうとう姿が見えなくなった。
一人になった自習室で、大きく息を吐く。
もう無理だ、諦めてしまおうか。一人ぼっちになった心細さから、私の心は折れてしまいそうになる。空色の瞳からはじわじわと涙がにじむ。
泣くな、泣くなシャルマリー。こんな惨めな姿を誰かに見られたらどうする。泣き止め、泣き止め。
どんなに自分に言い聞かせても、駄目だった。私の瞳から溢れる滴は止まらなくて、自習室の床を濡らしていく。
私はもう、クラーレでは働けない?ずっと治癒師になりたかったのに、もうなることは叶わない?
私は力が抜けたようにぺたんとその場に座り込み、濡れた床を見つめた。
夕暮れの自習室に風が吹き抜けた。窓も開いてないのに一体何処から…揺れるベビーブルーの髪を抑えながら辺りを見回す。
「あれ、君まだいたの?」
聞き覚えのある声がした。大声を出しているわけではないのにこの声は辺りによく聞こえる。少し低めの通る声。
まさか、この声は…
恐る恐る後ろに振り返ると、金の髪を風になびかせた男の、深い緑の瞳と目があった。
そこにいたのは、私が今一番会いたくない人物。ベルティア ライアント その人だった。
私は急いで頭の向きをもとに戻す。何故奴がここにいるのか。
一体何しにここに来たのか。いや、それよりも。
私の瞳や頬は未だ涙に濡れたままだ。そんな惨めな姿をよりにもよって一番見られたくない奴に見られてしまった。最悪だ、絶対に馬鹿にされる。結局攻撃魔法は使えなかったんだ、へぇー。じゃあ留年だ。おめでとう。
そんな嫌味が聞こえてくるようだった。
「試験は明日だけど、攻撃魔法は使えるようになった?」
案の定そんな問いかけをされる。うるさい、どうせ最初から分かってたんだろ。私には攻撃魔法が使えないことが。
悔しくて拳を強く握りしめる私。
「…使えなかった」
「やっぱりね」
僅かに声が震えた気がする。それもそうだ、床を濡らすほど涙を流したのだから。

