最近、よく同じ夢を見る。
夢の中のその人には心から想う人がいて、でも一緒にはなれなくて、最後にはその人は死んでしまう。そんな残酷な夢。

「…またか」

そしてそんな夢を見た日の朝、決まって私は涙を流している。



***********************



この世界の人たちは当たり前のように魔法を使う。高いところの物を浮かせてとったり、掌から水を出して庭に撒いたり、擦り傷に手をかざして傷を治したり。
中でも便利だと思うのは、一瞬で服を着替えることができる魔法だ。何せ眠い朝、布団の中にいながらネグリジェから普段着に着替えることができるのだ。なんて素晴らしい魔法なんだろう。この魔法のお陰で数分長く寝ていられる。
お父さんにはダラダラするために魔法を使うなと怒られるけど、こんな便利な魔法を使わない方がどうかしてると私は思う。





そんなこんなで身支度を整えた私はお父さんにいってきますと声をかけ、家を出ようとする。

「シャリー、指輪は持ってるか?」
「持ってるよ、ほら」
「よし」

お父さんに首からペンダントのようにぶら下げた指輪を見せる。その銀色に輝く指輪にはシャルマリー レイティスと私の名前が刻まれている。
だいたい、この指輪は寝てるときは左手の中指に着けてるし、日中は首からぶら下げてるし、常に持っておくようきつく言われてるし。持ってるに決まっているだろう。

私は生まれつき魔力が高い。かなり。とんでもなく。だから物心ついた時には、既にこの魔力封じの指輪を身に付けていた。魔力が高すぎるため、これがないと私の魔力は暴走してしまい、以前家に置いて魔法学校に行った時は暴走して大変だった。
それ以降、家を出る前には必ず指輪を持ってるか確認するようにしている。だから持ってるに決まっている。

「ああ、そうだ。俺今日夜勤だから、夜は帰ってこないからな。一応伝えておく。」
「へーい」

私のお父さん、ギルバルト レイティスは平民ながら王国の騎士団の団長になったちょっとすごい人。団長になったとき、王様から侯爵の爵位授与の話があったそうだが、貴族は柄じゃないと断ったそうだ。あの時お父さんが断らなければ今頃私は侯爵令嬢になってお姫様みたいな生活ができたかもしれないのに。この年になっても、やっぱりお姫様というものは女性の永遠の憧れであって。私も少しは憧れる。でも侯爵令嬢となると自由に外出できる機会も少なくなるだろうからそうなるのは気が引ける。結果私は侯爵令嬢の柄ではないということだろう。

「じゃあ、私もう行くね。」
「ああ、いってらっしゃい」

家を出ると、庭先に置いてあるどこにでもありそうな箒を手に取る。

「フローテ」

浮遊の呪文を唱えるとその箒は空中にゆらゆらと漂い始める。その箒に横座りに座ると、遠くに見えるお城のような建物を目指して飛んでいく。
あれが魔法学校だ。私の暮らす風の王国ルートピアに唯一ある魔法学校。この国で魔法を専門的に学びたい場合は首都にひとつしかないこの学校に通うしかない。遠くに住む人たちのために寮があるため、首都以外から通う人たちはその寮から通っている。私は首都に住んでいるので実家暮らしだ。

この国の魔法学校は風の王国にひとつしかないため、王族も貴族も平民も、魔法を学びたい人は皆ここに来る。だから魔法学校の中では身分は意味を持たない。教師はほとんど平民だし、授業には攻撃魔法を使って戦うものもあるし。身分を気にしていたらやっていけないから。