その声の優しさに包まれたい1

そんな危険物取扱室では。

戸ノ上と鈴原が、学会の資料とエミューの貴重な細胞検体を血眼で探していた。

ないなぁ・・・。

どこだどこだ。

あっちこっちと探しまくり、床もメチャクチャにしているがお構いなし。

「こっちか?いや違うな。」

「こっちも違います。」

本棚の本も、ファイルも雑にゴミのように投げ捨てる。

本当の泥棒みたいだ。

それを何度も何度も繰り返す。

「どうだ鈴原。」

少し、遠くの場所の棚で探している鈴原に声を掛けた。

「これ、番号からして、2000年よりも、たぶん・・・なのですが・・・。後で書いて、保存しているんではないでしょうか?エミューの成長も書いていると思いますし・・・。どうですか?推測ですが・・・。」

「くそ!その推測でも、年代別に見ているではないか鈴原。見つからん!これも!これもだ!あーっ!違う!」

二人は全ての棚やデスク、さらにCDーRまでも荒らす。

これだけ探しまくっても、何処に原本の資料がある?

考えろ考えろ。

戸ノ上は、イライラが募っていた。

ん?

なんとなく、今探している棚の隣の棚に目を向けた。

右側の白い棚の上の段を探す。

今までは、下の段を一生懸命探していたのだが見つからなった。

上段前後に薄いファイルが並んでいる。

一か所だけ不自然に、太く付箋いっぱいのA3のファイルを、右側の奥の棚から引っ張り出した戸ノ上。

ファイルの表に、マル秘マークがついており。

学会書類Aー1(2023年)と書かれていた。

「おい!鈴原!おい!この黄色いファイルを確認をしてくれ!」

「はい。」

右後ろ隣で、棚の中を探している手を止める鈴原。

そして、戸ノ上の居る場所まで駆け寄る。

二人で、片方ずつ持ち、内容を眼を見開き、探し続けた顔の汗が流れている中、端から端までペラペラとめくり読んだ。

「なっ!なんだと!知らんぞ知らんぞ!」

首を振りながら驚きを隠せない。

鈴原は逆に笑顔で。

「戸ノ上部長、棚中を探してやっと見つけましたね。良かったじゃないですか!この黄色いファイル。彼らに渡してはなりません!」

「あぁ。そうだな。ムフフ。」

渡すものか。

少し二ヤっとし伝える。

「アメリカのハーバベル大学のメルト博士の最新情報も、この論文の中に書き、世界に発表しようと思っていると書いてますね。」

再度ファイルを掴んだ。

「許さん!」

戸ノ上は黄色いファイルを、鈴原から奪い、ぎゅっと両手を掌を真っ赤にしながら握る。

俺の前に、メルト博士まで密会していたなんて・・・。

しかも4人でだ。

いつの間に・・・。

口をへの字にしながら目を見開き、ブルブルと全身を震わせ怒りを表現していた。

資料は手に入れた。

同時に手に入れなきゃ発表できないもの。

そのもう一つが己の評価に絶対必要である。

とても貴重なエミユーの細胞検体だ。

戸ノ上と鈴原は、奥の危険物専門の部屋の扉を開け、散らかしたまま、手を洗い感染用防具服を着て入って行った。


危険物取扱室の扉の前。

「おい。鍵が開いている。」

俊也が由美子に言いました。

「えっ?嘘。」

そんなはずはない。

顔で表現する由美子。

自分達の思い違いか?

頭でよく思い出し。

「ちゃんと昨日閉めたはず。」

「俺も見ていた。」

ここは、普段は立ち入りを制限している場所。

自分達以外に誰がここに?

まさか!

「ねぇ、もしかして。」

「由美子、俺もお前と同じだ。それしか考えられないな。」

二人は顔を見合わせて、急いで一つ目のドア、二つ目のドアを開けた。

一つ目の部屋が、かなり散らかり、専門のPCは全部電源が入っていた。

「なっ!?」

「どっ、どういうこと?PCやファイルが散乱しているわ!」

「一体この状況はなんなんだ。」

やっぱり由美子は、どうも胸騒ぎがあるので。

「俊也、この状況を直樹達に来てもらいましょう。」

由美子は、携帯電話を左ポケットから取り出して、第二研究室に居る綾乃にかけた。

その頃。

「なぁ、綾乃。洋子も帰ったし機嫌治してくれよ。おーい。」

まだ怒っている綾乃。

仕方がないので、お気に入りの紅茶を入れてみようと、立ちあがった矢先に、綾乃の携帯電話が鳴り響く。

ルルルルル。

「はい。うん。え?そんな・・・。わかったわ。じゃ後で。」

綾乃は、携帯電話を切る。

そして直樹に向かって。

「直樹大変!由美子が・・・。」

コロンコロンコロン。

綾乃が、朝から飲んでたBOSSのコーヒーのペットボトルが、左手に当たり跳ねながら転がった。

一旦。

俊也と由美子は散乱した部屋を出て二人が来るのを待った。

「あんなに酷く荒らされていると、あのファイルを奪われているかもしれないな。」

ふぅー。

少し長めに息を吐いてストレスを取り除いた。

「本当にそうなら許せない。現場を直樹達に見せて、その先の危険物取扱室も調べましょ。」

「勿論、当たり前だろ。」

直樹と綾乃は、由美子から連絡をもらい地下まで必死に走った。

「由美子連絡ありがとう。」

「部屋が荒らされてるって本当か?」

ようやく二人と合流。

息を整えながら話した。

まさかと思う出来事があったと、由美子から聞いてはいたけど、俊也に直樹に問いかけた。

「直樹、こんな感じなんだ。」

二人は、部屋の扉を開けた瞬間、現状に酷く驚く。



これは・・・やはり・・・彼らなのか?

直樹は、思ってしまった。

綾乃も失われた資料がないか、PCを起動させ調べた。

「こっちもいい。こっちもいい。エミューの物だけないわ。」

綾乃は信じられないと思う顔をする。

「やはり。最近妙に、きつく当たると思ったが、彼らは俺達の動きが緩い時に盗もうとしていたんだ。確か、手段は選ばず世界一を取ると言ってたしな。」

困りながらも遺憾に直樹。

エミューの成長記録と新たな治療の成果の記録も、もう一つの黄色いファイルにあるからな。

「ねぇ、検体は調べた?」

綾乃は、俊也と由美子に聞いた。

しかし二人は、まだ調べていないと直樹と綾乃に向かって伝えた。

「まず4人で、ここを片付けよう。」

「それから防具服着て、中に入って調べよう。」

直樹と俊也は、綾乃と由美子に伝えながら、散らかし放題の物を片付け始めた。

すると。

綾乃が、直樹と俊也に。

「ここは私と由美子で片づけるから大丈夫。」

「そうね。検体まで奪われたら発表できないわ。」

・・・。

直樹と俊也は、綾乃と由美子に部屋の片づけを任せる事した。

そして、感染対策の防具服に着替えて中に入ることにした。

毎回防具服は、着るのも脱ぐのも大変だ。

「じゃ、頼む。」

「何かあったら緊急非常ボタン押すよ。」

中は、とても危険な薬品も多い為そう言った。

二人は、戸ノ上と鈴原が居る事を知らないまま第三の扉。

危険物取扱室の地下2に入って行った。

「部長!10種類の検体がここにあります。全てエミューの物です。隣には死んだ仲間たちの検体です。」

「おぉお!そっ、それだ!」

うんうん。

これも・・・これも・・・そうだ。

こっちは最近の検体だった。

15000万分の検体プレートが各部署ごとにある。

目的のエミューの両親のプレートがある場所まで行き。

エミューの名前を探す。

そして、鈴原がエミューのプレートを見つけた。

望むプレートを発見し戸ノ上は喜ぶ。

「さぁ、このまま持ち帰えるぞ。」

「はっ、はい!」

小さなプレートを大事にする為。

戸ノ上は、鈴原が用意した細長い桐の木箱に入れる。

「大事にしなければ。」

一言そう漏らし。

鈴原と一緒に出したプレートも片付けた。

さて、もうここには用はない。

帰ろうとした矢先。

!!

直樹と俊也が、防具服を着て部屋に入って鉢合わせになった。

「やはり、奪いに来たのですね。」

直樹は、戸ノ上の手に持ってる桐の木箱を見て言い放つ。

「その持っているのを、元の場所に返していただきたい。」

俊也も、桐の箱に指を指して返せと言い放った。

「んぁ!」

鈴原は、のけ反りながらビビる。

「お前達は、これがないと発表もできないよな。それに、この付箋がいっぱいの黄色のファイルも・・・。」

顔の横にファイルを掲げる。

「だから何ですか?」

「今この場所で返していただければ、盗もうとした、お二人の事を公にはしません。」

すると。

戸ノ上は、不気味な笑みを見せつつ笑う。

「フフフフ・・・返す?この・・・俺がか?」

「何がおかしいのです!返して下さい!」

もう一度、少し怒りながら直樹は伝えた。

しかし戸ノ上は、聴く耳はもたず。

二人の前で。

「これを返すことはしない!するわけないだろ!!」

戸ノ上は大声を出し、ドンッと身体ごとぶつかり進もうとした。

「まっ、待ってください!」

直樹は、戸ノ上の腰を必死に掴み振り払う。

戸ノ上はドアを掴み損ねる。

また這い上がりドアを掴む。

鈴原も、戸ノ上が部屋から脱出できるよう。

直樹達が戸ノ上の邪魔をするのを止めようとする。

「どけっ!邪魔をするな!」

「お前達やめろ!」

直樹も俊也も、戸ノ上や鈴原と揉み合いになってしまう。

だんだんと揉み合いから、本気の殴り合いになってしまう。

うっ!

ふぅう。

ドスン!

カランコロン。

パリンパリン。

「くっ・・・うぅ・・・。」

直樹は、初めて人を殴った。

戸ノ上から、強い拳を受け痛みを感じていた。

鈴原も、俊也と殴ったり揉み合ったりしつつも。

桐の箱とファイルも、見つけたのはこちらなので防御すると言う。

ふらつきながら片手ずつ交互に抱え、辺りにある物を投げたりしていた戸ノ上に。

「いい加減にして下さい!痛っ・・・。」

「物を投げないでください!」

何度も言いながら、投げ飛ばしたりしても、互いに殴り合っても桐の箱を奪う事できない。

どうすればいい。

互いに、奪いたい奪われたくもない。

そんな気持ちでいた。

15分位した頃。

綾乃と由美子は、中に入ってから出てこない二人を心配した。

「ねぇ。」

「んっ?」

声かけたのは綾乃。

それに反応する由美子。

「どうも長くない?」

綾乃は、床掃除から、テーブルの掃除をしながら由美子に話しかけた。

「そうねぇ・・・確かに。かれこれ15分位経っているかしら。」

由美子は、自分の左腕の腕時計の針を見た。

「ここ、もう片付けは大丈夫だし、見つかってないかもしれないから、中に入って一緒に探せば一石二鳥じゃない。」

どうする?

ここで待ってる?

そんな顔をする。

由美子は少し考え。

「うーん。4人で探す。確かに早いかも・・・。」

男どもが探し当ててないのなら、一緒に探してスッキリできたらと思った。

そうと決まれば、二人は専用ロッカーから防具服に着替えた。

よし!

OK!

「中に入りましょ。」

「そうしましょ。」

2の部屋のドアを開ける。

1つ目のドアを開けたら、2つ目のドア越しに物が割れたり罵声みたいのが聞こえた。

「なんか変じゃない?」

「えぇ。この声って・・・。」

急いで中に入る。

部屋内部で、2対2で大喧嘩をしていた。

「戸ノ上部長!!」

「直樹に俊也!!」

綾乃と由美子は口々に言いました。

部屋の惨状を見て。

一体何が起きているのか?

殴り合いしすぎて息が上がっている4人。

綾乃と由美子は、ようやく喧嘩した原因を理解する。

「あれ!」

「まさか!」

綾乃と由美子は、直樹達は戸ノ上の持ってる桐の箱を取り返そうとしていたと・・・。

その中に、エミューの検体が入っている。

二人は、戸ノ上と鈴原の手に持っている物を、力を入れて引っ張りながら奪おうとした。

しかし女の力では奪うことが出来ず。

力が強い二人に突き飛ばされてしまう。

っと同時に棚にぶつかり、右の棚にある大切な細胞の検体のプレートの箱やファイルが落ちる。

「綾乃!」

「由美子!」

それぞれの妻の元に駆け寄って行った直樹と俊也。

大きく突き飛ばされ全身を打ってしまう。

なかなか立ちあがることが出来ない。

痛みもあるが、それぞれゆっくり起き上がる。

まだ立ちあがることはできない。

座位の状態で、直樹は綾乃を、俊也は由美子の背中を支えていた。

「痛いじゃないか!邪魔するな!俺を誰だと思っているんだ!」

ただ物を返してもらう為にした事。

凄い剣幕で言い放った。

鈴原は、逃げるにはどうしたら?

それを戸ノ上に問いかけた。

「戸ノ上部長どういたします?これでは、4人を避けて持ち去りが出来ませんねぇ。」

綾乃と由美子も加わった為に、身動きが取れない戸ノ上と鈴原。

「邪魔?随分な言い方ですね。」

「俺・・・腹が立ちます!研究者としても人間としても・・・。そんなに・・・そんなに、その検体が欲しいのですか!」

「殴り合いまでして奪いたいのですか?常識的におかしいです!」

「どうして・・・ここまでされなきゃならないんです!」

直樹達は口々に言いました。

目の前にいるのは同じ研究員なのかと・・・。

本当に胸の中がザワザワしてしまう。

同時に怒りになってしまう。

すると戸ノ上が4人に言いました。

「このエミューの検体の中身は、全世界に評価され認知度が高まる。それは想定済みだ。俺はな・・・。40年も、賞を取る為に、どんな分野で賞が取れるか?悩み。そして決断し、必死に毎日毎日研究してきた。互いにライバル的存在だったが、いつしか、周囲の見る目が俺ではなくなっていき始めた。最近では、あの手術のせいで、もっともっと存在感が失われた。若き天才達?たまたま成功した手術。落選落選落選!どうして周囲は私は選ばない!動物の病変がある脳を、脳死判定した動物から、脳を一部切開し移植。人間でもしているだろう?医療機器で、半冷凍にした心臓を移植するという研究。お前達の会った博士達が、俺に対して疑心暗鬼の目をしていた。ふざけるな!確実に救えるか?その問いかけばかりだったさ。成功データが少ないと言いやがった。今回は、全世界が、エミューの治療の論文を聞きたいと言ってきた。彼等は、私達の研究以上をした。海外の各国に期間限定で、研究員になってもらう話が出てきていると言っていた。お前達に先越され、俺が,下僕のような気持ちになる生活を強いられるのは、死んでもまっぴらごめんだ!怒りに震えるわ!」

「密会は違反だ!図に乗るな!言葉巧みに、賞が取れるように言いくるめたんだろ!今なら許してもらえるぞ!電話でもメールでも今ここで辞退を伝えろ!絶対に後悔するぞ!」

今なら許す?

後悔?

言葉の先が読めない4人。

密会は違反?

ただ来日したので、私達でおもてなしをした。

怒り狂い癇癪を起すのは大人げないと思う。

確かに部長は落選。

内容は素晴らしい研究だと思っている。

データがないうちは評価されにくいのも当然だ。

私達のせいと言われるのは困惑してしまう。

エミューを研究している私達の評価はビックリするもの。

まさか、ここまでされるとは・・・泥棒をしてまでとは・・・。

「もう一度言います。こんな事をしていいと思ってるんですか?素晴らしい研究をしているのは分かります。しかし侮辱はやめてもらいたい。あの時、俺達も、救えるなんて思っていませんでした。エミュー以外は救えなかった。悲しみもありました。エミューは幸運の犬です。最終的に、センター長に辞退を申し出たのは、戸ノ上部長あなたです!」

直樹は、聞く耳持たなくても戸ノ上に強く言った。

「うっ・・・うるさい!だまれ!これは・・・これはお前達に絶対に渡さすもんかぁぁぁぁ!」

出入り口を開けて出て行こうとした。

「待ってください!」

「返してください!」

「私達の物です!」

「やめてください!」

二人の身体にしがみつく。

また振り払われる。

すると、戸ノ上は鈴原に何やら合図を送る。

コクリと首を縦に頷く。

無言で、鈴原は二ヤっとしていた。

そして。

「これを見ろ!」

鈴原が、ポケットからジッポライターを出した。

戸ノ上は、桐の箱を高々と天井に向けて上げる。

!!

「何をするんです!」

「やめて!」

「戸ノ上部長!鈴原主任!」

「ライターをしまってください!」

ボゥ!

桐の箱が、4人の前で燃え始めた。

大切な物が・・・。

実は、これは中身のない桐の箱。

自分の手が燃えないように、床に燃えている桐の箱を落とす戸ノ上。

4人は頭の部分を脱ぎ、ショックが隠しきれない。

呆然としてしまう。

その顔を見ながら。

「もう4人共消しますか?このまま、ここで消しましょう。上手くいきます!燃えるものがいっぱいな危険物が多いですから・・・。」

「フハハハ。いい案だな。これをかけて、劇薬で周囲を燃やす。ここで話したことも、原因の証拠もなくなる。そしたら、俺はお前達の代わりに全世界に評価される。フハハハ。いい案を考えた。くらえ!!」

この人達は何を言っているんだ?

そう思う4人。

隙ができ。

サッと護身用のスプレーを戸ノ上は、息苦しくなるほど4人にかける。

ゲホゲホ。

苦しい・・・。

眼が痛い・・・。

「子供達には悪いが、ここで高城達には息絶えてもらう。」

本気で私達を・・・。

息がしにくい。

鈴原が、劇薬を棚から取り出し戸ノ上に渡す。

「これをどうぞ。」

「おうおう。これか・・・そうだな。」

戸ノ上と鈴原は、毒液を吸わないように専用マスクをする。

ジョボジョボジョボ。

床にこぼしていく。

これは臭い!

一瞬で部屋に充満。

直ぐ頭の被り物を被る。

何故か、それを4人目がけてかけた。

防具服は分厚いもの。

だが、雫が付着すると焦げたように穴が開く。

戸ノ上も鈴原も、近くにある劇薬をまき散らす。

そして・・・。

4人は、劇薬の雫が身体に付着し、穴が開き鼻腔を通り呼吸がしにくくなっていた。

それだけではなく、別の劇薬で身体に震えもでていた。

「そろそろ出ますか?」

「あぁ。箱は燃えたんだ。こっちも燃やしていこう。」

メモ用紙の束を劇薬につける。

「なっ・・・何・・・を・・・。」

「ハァー・・・それでも研究・・・者です・・・か・・・。」

「やめ・・・て・・・。」

「との・・・う・・・うぅ・・・ハァ・・・戸ノ上部長!」

力を出す。

肺に空気が入りにくい.

嘆きに聞こえようが、手を止めることのない二人に細い声で伝えた。

この男達は、もう・・・もう研究者じゃない!

何もそこまで・・・っと思う事でも、こんなに恨まれるとは思わなかった。

そして、願いも虚しい気持ちだ。

きっと・・・きっと・・・。

頭が朦朧とし始めてきた4人。

心の中で思う事。

それは。

名声や利益に狂う鬼だ!

殺人者だ!

この信じがたい。

目の前の状況は現実。

どうなる?

それは・・・この状況では・・・誰かを呼ぶことさえできない。

今・・・。

4人は、目の前にいる二人に恐怖を感じる。

防具が溶け始めている。

雫で、ギャー!!っと叫ぶほど痛みが出る。

のたうち回ろうが、ニヤけて、これでも賞を譲る気はないかと言う。

子供達・・・。

エミュー・・・。

幸せな日々が脳裏に浮かび始めている。

ライターで、全部のメモ用紙やファイルのいらない紙に火をつける。

火種を端から燃やす。

一気に燃え始める。

4人はバタバタと痛みもあるが、何とか・・・何とか燃えさかる部屋から逃げ出したい!

全力でもがく。

その間に戸ノ上が、一つ目のドアを閉める。

そして。

完全に閉じる為に、二つ目の扉は、二人で室内から机を運んで内側から出られなくした。

さらに、扉に近くにあった。

細身のロープ、を二重にグルグル巻き付け硬く縛る。

簡単に取れないように、最後は駒結びではなく、登山で登る時の縛り方にする。

「ゴホッ!ゴホン!ゲフォ!・・・なお・・・き・・・。どこに・・・。」

「ゆっ・・・ゲフォ!ハァ・・・ハァ・・・ゆみ・・・こ・・・。」

「・・・ゴホッ!ゲフォ!・・・ハァー。いっ、・・・あや・・・の・・・。」

「・・・みっ・・みん・・・ゲフォゲフォ!ガハァ!・・・いっ・・・いる・・・わ・・・。」

4人は劇薬の煙を吸い。

内臓が、劇薬で損傷し始める。

火傷も負っている。

だが、それぞれ吐血してしまう。

この状況は死を意味する事。

このまま力尽きてしまうのか?

力を全員で、何とか出せないものか?

扉を開けるものを探す。

火が二つ目までに行く前に・・・。

ここで感染症の治療をしていた、100匹の動物達の悲鳴が耳に残るほど響き渡る。

すまない・・・。

ごめんなさい・・・。

火が動物達を燃やしていってる。

ジワリジワリと、こちらに近づいているのがわかる。

あれだけの劇薬なだけに火力も強い。

何とか一つ目のドアを開けたい。

ゆっくり・・・ゆっくり・・・。

息が荒々しくなっても、必死に立とうとする4人。

顔が熱い。

全身の皮膚も、内臓の損傷も、たぶん・・・50%近く異常が出ている事だろう。

戸ノ上に、鈴原に、何度も劇薬でかけられ、さらに火傷もしているので我慢も限界。

両方の痛みは、とてもとても激痛で、振り絞る力がやっと。

それでも家族の元にいかねばと思う4人。

戸ノ上達が持ち去ろうとしたものもないと・・・。