そんな危険物取扱室では。
戸ノ上と鈴原が、学会の資料とエミューの貴重な細胞検体を血眼で探していた。
ないなぁ・・・。
どこだどこだ。
あっちこっちと探しまくり、床もメチャクチャにしているがお構いなし。
「こっちか?いや違うな。」
「こっちも違います。」
本棚の本も、ファイルも雑にゴミのように投げ捨てる。
本当の泥棒みたいだ。
それを何度も何度も繰り返す。
「どうだ鈴原。」
少し、遠くの場所の棚で探している鈴原に声を掛けた。
「これ、番号からして、2000年よりも、たぶん・・・なのですが・・・。後で書いて、保存しているんではないでしょうか?エミューの成長も書いていると思いますし・・・。どうですか?推測ですが・・・。」
「くそ!その推測でも、年代別に見ているではないか鈴原。見つからん!これも!これもだ!あーっ!違う!」
二人は全ての棚やデスク、さらにCDーRまでも荒らす。
これだけ探しまくっても、何処に原本の資料がある?
考えろ考えろ。
戸ノ上は、イライラが募っていた。
ん?
なんとなく、今探している棚の隣の棚に目を向けた。
右側の白い棚の上の段を探す。
今までは、下の段を一生懸命探していたのだが見つからなった。
上段前後に薄いファイルが並んでいる。
一か所だけ不自然に、太く付箋いっぱいのA3のファイルを、右側の奥の棚から引っ張り出した戸ノ上。
ファイルの表に、マル秘マークがついており。
学会書類Aー1(2023年)と書かれていた。
「おい!鈴原!おい!この黄色いファイルを確認をしてくれ!」
「はい。」
右後ろ隣で、棚の中を探している手を止める鈴原。
そして、戸ノ上の居る場所まで駆け寄る。
二人で、片方ずつ持ち、内容を眼を見開き、探し続けた顔の汗が流れている中、端から端までペラペラとめくり読んだ。
「なっ!なんだと!知らんぞ知らんぞ!」
首を振りながら驚きを隠せない。
鈴原は逆に笑顔で。
「戸ノ上部長、棚中を探してやっと見つけましたね。良かったじゃないですか!この黄色いファイル。彼らに渡してはなりません!」
「あぁ。そうだな。ムフフ。」
渡すものか。
少し二ヤっとし伝える。
「アメリカのハーバベル大学のメルト博士の最新情報も、この論文の中に書き、世界に発表しようと思っていると書いてますね。」
再度ファイルを掴んだ。
「許さん!」
戸ノ上は黄色いファイルを、鈴原から奪い、ぎゅっと両手を掌を真っ赤にしながら握る。
俺の前に、メルト博士まで密会していたなんて・・・。
しかも4人でだ。
いつの間に・・・。
口をへの字にしながら目を見開き、ブルブルと全身を震わせ怒りを表現していた。
資料は手に入れた。
同時に手に入れなきゃ発表できないもの。
そのもう一つが己の評価に絶対必要である。
とても貴重なエミユーの細胞検体だ。
戸ノ上と鈴原は、奥の危険物専門の部屋の扉を開け、散らかしたまま、手を洗い感染用防具服を着て入って行った。
危険物取扱室の扉の前。
「おい。鍵が開いている。」
俊也が由美子に言いました。
「えっ?嘘。」
そんなはずはない。
顔で表現する由美子。
自分達の思い違いか?
頭でよく思い出し。
「ちゃんと昨日閉めたはず。」
「俺も見ていた。」
ここは、普段は立ち入りを制限している場所。
自分達以外に誰がここに?
まさか!
「ねぇ、もしかして。」
「由美子、俺もお前と同じだ。それしか考えられないな。」
二人は顔を見合わせて、急いで一つ目のドア、二つ目のドアを開けた。
一つ目の部屋が、かなり散らかり、専門のPCは全部電源が入っていた。
「なっ!?」
「どっ、どういうこと?PCやファイルが散乱しているわ!」
「一体この状況はなんなんだ。」
やっぱり由美子は、どうも胸騒ぎがあるので。
「俊也、この状況を直樹達に来てもらいましょう。」
由美子は、携帯電話を左ポケットから取り出して、第二研究室に居る綾乃にかけた。
その頃。
「なぁ、綾乃。洋子も帰ったし機嫌治してくれよ。おーい。」
まだ怒っている綾乃。
仕方がないので、お気に入りの紅茶を入れてみようと、立ちあがった矢先に、綾乃の携帯電話が鳴り響く。
ルルルルル。
「はい。うん。え?そんな・・・。わかったわ。じゃ後で。」
綾乃は、携帯電話を切る。
そして直樹に向かって。
「直樹大変!由美子が・・・。」
コロンコロンコロン。
綾乃が、朝から飲んでたBOSSのコーヒーのペットボトルが、左手に当たり跳ねながら転がった。
一旦。
俊也と由美子は散乱した部屋を出て二人が来るのを待った。
「あんなに酷く荒らされていると、あのファイルを奪われているかもしれないな。」
ふぅー。
少し長めに息を吐いてストレスを取り除いた。
「本当にそうなら許せない。現場を直樹達に見せて、その先の危険物取扱室も調べましょ。」
「勿論、当たり前だろ。」
直樹と綾乃は、由美子から連絡をもらい地下まで必死に走った。
「由美子連絡ありがとう。」
「部屋が荒らされてるって本当か?」
ようやく二人と合流。
息を整えながら話した。
まさかと思う出来事があったと、由美子から聞いてはいたけど、俊也に直樹に問いかけた。
「直樹、こんな感じなんだ。」
二人は、部屋の扉を開けた瞬間、現状に酷く驚く。
!
これは・・・やはり・・・彼らなのか?
直樹は、思ってしまった。
綾乃も失われた資料がないか、PCを起動させ調べた。
「こっちもいい。こっちもいい。エミューの物だけないわ。」
綾乃は信じられないと思う顔をする。
「やはり。最近妙に、きつく当たると思ったが、彼らは俺達の動きが緩い時に盗もうとしていたんだ。確か、手段は選ばず世界一を取ると言ってたしな。」
困りながらも遺憾に直樹。
エミューの成長記録と新たな治療の成果の記録も、もう一つの黄色いファイルにあるからな。
「ねぇ、検体は調べた?」
綾乃は、俊也と由美子に聞いた。
しかし二人は、まだ調べていないと直樹と綾乃に向かって伝えた。
「まず4人で、ここを片付けよう。」
「それから防具服着て、中に入って調べよう。」
直樹と俊也は、綾乃と由美子に伝えながら、散らかし放題の物を片付け始めた。
すると。
綾乃が、直樹と俊也に。
「ここは私と由美子で片づけるから大丈夫。」
「そうね。検体まで奪われたら発表できないわ。」
・・・。
直樹と俊也は、綾乃と由美子に部屋の片づけを任せる事した。
そして、感染対策の防具服に着替えて中に入ることにした。
毎回防具服は、着るのも脱ぐのも大変だ。
「じゃ、頼む。」
「何かあったら緊急非常ボタン押すよ。」
中は、とても危険な薬品も多い為そう言った。
二人は、戸ノ上と鈴原が居る事を知らないまま第三の扉。
危険物取扱室の地下2に入って行った。
「部長!10種類の検体がここにあります。全てエミューの物です。隣には死んだ仲間たちの検体です。」
「おぉお!そっ、それだ!」
うんうん。
これも・・・これも・・・そうだ。
こっちは最近の検体だった。
15000万分の検体プレートが各部署ごとにある。
目的のエミューの両親のプレートがある場所まで行き。
エミューの名前を探す。
そして、鈴原がエミューのプレートを見つけた。
望むプレートを発見し戸ノ上は喜ぶ。
「さぁ、このまま持ち帰えるぞ。」
「はっ、はい!」
小さなプレートを大事にする為。
戸ノ上は、鈴原が用意した細長い桐の木箱に入れる。
「大事にしなければ。」
一言そう漏らし。
鈴原と一緒に出したプレートも片付けた。
さて、もうここには用はない。
帰ろうとした矢先。
!!
直樹と俊也が、防具服を着て部屋に入って鉢合わせになった。
「やはり、奪いに来たのですね。」
直樹は、戸ノ上の手に持ってる桐の木箱を見て言い放つ。
「その持っているのを、元の場所に返していただきたい。」
俊也も、桐の箱に指を指して返せと言い放った。
「んぁ!」
鈴原は、のけ反りながらビビる。
「お前達は、これがないと発表もできないよな。それに、この付箋がいっぱいの黄色のファイルも・・・。」
顔の横にファイルを掲げる。
「だから何ですか?」
「今この場所で返していただければ、盗もうとした、お二人の事を公にはしません。」
すると。
戸ノ上は、不気味な笑みを見せつつ笑う。
「フフフフ・・・返す?この・・・俺がか?」
「何がおかしいのです!返して下さい!」
もう一度、少し怒りながら直樹は伝えた。
しかし戸ノ上は、聴く耳はもたず。
二人の前で。
「これを返すことはしない!するわけないだろ!!」
戸ノ上は大声を出し、ドンッと身体ごとぶつかり進もうとした。
「まっ、待ってください!」
直樹は、戸ノ上の腰を必死に掴み振り払う。
戸ノ上はドアを掴み損ねる。
また這い上がりドアを掴む。
鈴原も、戸ノ上が部屋から脱出できるよう。
直樹達が戸ノ上の邪魔をするのを止めようとする。
「どけっ!邪魔をするな!」
「お前達やめろ!」
直樹も俊也も、戸ノ上や鈴原と揉み合いになってしまう。
だんだんと揉み合いから、本気の殴り合いになってしまう。
うっ!
ふぅう。
ドスン!
カランコロン。
パリンパリン。
「くっ・・・うぅ・・・。」
直樹は、初めて人を殴った。
戸ノ上から、強い拳を受け痛みを感じていた。
鈴原も、俊也と殴ったり揉み合ったりしつつも。
桐の箱とファイルも、見つけたのはこちらなので防御すると言う。
ふらつきながら片手ずつ交互に抱え、辺りにある物を投げたりしていた戸ノ上に。
「いい加減にして下さい!痛っ・・・。」
「物を投げないでください!」
何度も言いながら、投げ飛ばしたりしても、互いに殴り合っても桐の箱を奪う事できない。
どうすればいい。
互いに、奪いたい奪われたくもない。
そんな気持ちでいた。
15分位した頃。
綾乃と由美子は、中に入ってから出てこない二人を心配した。
「ねぇ。」
「んっ?」
声かけたのは綾乃。
それに反応する由美子。
「どうも長くない?」
綾乃は、床掃除から、テーブルの掃除をしながら由美子に話しかけた。
「そうねぇ・・・確かに。かれこれ15分位経っているかしら。」
由美子は、自分の左腕の腕時計の針を見た。
「ここ、もう片付けは大丈夫だし、見つかってないかもしれないから、中に入って一緒に探せば一石二鳥じゃない。」
どうする?
ここで待ってる?
そんな顔をする。
由美子は少し考え。
「うーん。4人で探す。確かに早いかも・・・。」
男どもが探し当ててないのなら、一緒に探してスッキリできたらと思った。
そうと決まれば、二人は専用ロッカーから防具服に着替えた。
よし!
OK!
「中に入りましょ。」
「そうしましょ。」
2の部屋のドアを開ける。
1つ目のドアを開けたら、2つ目のドア越しに物が割れたり罵声みたいのが聞こえた。
「なんか変じゃない?」
「えぇ。この声って・・・。」
急いで中に入る。
部屋内部で、2対2で大喧嘩をしていた。
「戸ノ上部長!!」
「直樹に俊也!!」
綾乃と由美子は口々に言いました。
部屋の惨状を見て。
一体何が起きているのか?
殴り合いしすぎて息が上がっている4人。
綾乃と由美子は、ようやく喧嘩した原因を理解する。
「あれ!」
「まさか!」
綾乃と由美子は、直樹達は戸ノ上の持ってる桐の箱を取り返そうとしていたと・・・。
その中に、エミューの検体が入っている。
二人は、戸ノ上と鈴原の手に持っている物を、力を入れて引っ張りながら奪おうとした。
しかし女の力では奪うことが出来ず。
力が強い二人に突き飛ばされてしまう。
っと同時に棚にぶつかり、右の棚にある大切な細胞の検体のプレートの箱やファイルが落ちる。
「綾乃!」
「由美子!」
それぞれの妻の元に駆け寄って行った直樹と俊也。
大きく突き飛ばされ全身を打ってしまう。
なかなか立ちあがることが出来ない。
痛みもあるが、それぞれゆっくり起き上がる。
まだ立ちあがることはできない。
座位の状態で、直樹は綾乃を、俊也は由美子の背中を支えていた。
「痛いじゃないか!邪魔するな!俺を誰だと思っているんだ!」
ただ物を返してもらう為にした事。
凄い剣幕で言い放った。
鈴原は、逃げるにはどうしたら?
それを戸ノ上に問いかけた。
「戸ノ上部長どういたします?これでは、4人を避けて持ち去りが出来ませんねぇ。」
綾乃と由美子も加わった為に、身動きが取れない戸ノ上と鈴原。
「邪魔?随分な言い方ですね。」
「俺・・・腹が立ちます!研究者としても人間としても・・・。そんなに・・・そんなに、その検体が欲しいのですか!」
「殴り合いまでして奪いたいのですか?常識的におかしいです!」
「どうして・・・ここまでされなきゃならないんです!」
直樹達は口々に言いました。
目の前にいるのは同じ研究員なのかと・・・。
本当に胸の中がザワザワしてしまう。
同時に怒りになってしまう。
すると戸ノ上が4人に言いました。
「このエミューの検体の中身は、全世界に評価され認知度が高まる。それは想定済みだ。俺はな・・・。40年も、賞を取る為に、どんな分野で賞が取れるか?悩み。そして決断し、必死に毎日毎日研究してきた。互いにライバル的存在だったが、いつしか、周囲の見る目が俺ではなくなっていき始めた。最近では、あの手術のせいで、もっともっと存在感が失われた。若き天才達?たまたま成功した手術。落選落選落選!どうして周囲は私は選ばない!動物の病変がある脳を、脳死判定した動物から、脳を一部切開し移植。人間でもしているだろう?医療機器で、半冷凍にした心臓を移植するという研究。お前達の会った博士達が、俺に対して疑心暗鬼の目をしていた。ふざけるな!確実に救えるか?その問いかけばかりだったさ。成功データが少ないと言いやがった。今回は、全世界が、エミューの治療の論文を聞きたいと言ってきた。彼等は、私達の研究以上をした。海外の各国に期間限定で、研究員になってもらう話が出てきていると言っていた。お前達に先越され、俺が,下僕のような気持ちになる生活を強いられるのは、死んでもまっぴらごめんだ!怒りに震えるわ!」
「密会は違反だ!図に乗るな!言葉巧みに、賞が取れるように言いくるめたんだろ!今なら許してもらえるぞ!電話でもメールでも今ここで辞退を伝えろ!絶対に後悔するぞ!」
今なら許す?
後悔?
言葉の先が読めない4人。
密会は違反?
ただ来日したので、私達でおもてなしをした。
怒り狂い癇癪を起すのは大人げないと思う。
確かに部長は落選。
内容は素晴らしい研究だと思っている。
データがないうちは評価されにくいのも当然だ。
私達のせいと言われるのは困惑してしまう。
エミューを研究している私達の評価はビックリするもの。
まさか、ここまでされるとは・・・泥棒をしてまでとは・・・。
「もう一度言います。こんな事をしていいと思ってるんですか?素晴らしい研究をしているのは分かります。しかし侮辱はやめてもらいたい。あの時、俺達も、救えるなんて思っていませんでした。エミュー以外は救えなかった。悲しみもありました。エミューは幸運の犬です。最終的に、センター長に辞退を申し出たのは、戸ノ上部長あなたです!」
直樹は、聞く耳持たなくても戸ノ上に強く言った。
「うっ・・・うるさい!だまれ!これは・・・これはお前達に絶対に渡さすもんかぁぁぁぁ!」
出入り口を開けて出て行こうとした。
「待ってください!」
「返してください!」
「私達の物です!」
「やめてください!」
二人の身体にしがみつく。
また振り払われる。
すると、戸ノ上は鈴原に何やら合図を送る。
コクリと首を縦に頷く。
無言で、鈴原は二ヤっとしていた。
そして。
「これを見ろ!」
鈴原が、ポケットからジッポライターを出した。
戸ノ上は、桐の箱を高々と天井に向けて上げる。
!!
「何をするんです!」
「やめて!」
「戸ノ上部長!鈴原主任!」
「ライターをしまってください!」
ボゥ!
桐の箱が、4人の前で燃え始めた。
大切な物が・・・。
実は、これは中身のない桐の箱。
自分の手が燃えないように、床に燃えている桐の箱を落とす戸ノ上。
4人は頭の部分を脱ぎ、ショックが隠しきれない。
呆然としてしまう。
その顔を見ながら。
「もう4人共消しますか?このまま、ここで消しましょう。上手くいきます!燃えるものがいっぱいな危険物が多いですから・・・。」
「フハハハ。いい案だな。これをかけて、劇薬で周囲を燃やす。ここで話したことも、原因の証拠もなくなる。そしたら、俺はお前達の代わりに全世界に評価される。フハハハ。いい案を考えた。くらえ!!」
この人達は何を言っているんだ?
そう思う4人。
隙ができ。
サッと護身用のスプレーを戸ノ上は、息苦しくなるほど4人にかける。
ゲホゲホ。
苦しい・・・。
眼が痛い・・・。
「子供達には悪いが、ここで高城達には息絶えてもらう。」
本気で私達を・・・。
息がしにくい。
鈴原が、劇薬を棚から取り出し戸ノ上に渡す。
「これをどうぞ。」
「おうおう。これか・・・そうだな。」
戸ノ上と鈴原は、毒液を吸わないように専用マスクをする。
ジョボジョボジョボ。
床にこぼしていく。
これは臭い!
一瞬で部屋に充満。
直ぐ頭の被り物を被る。
何故か、それを4人目がけてかけた。
防具服は分厚いもの。
だが、雫が付着すると焦げたように穴が開く。
戸ノ上も鈴原も、近くにある劇薬をまき散らす。
そして・・・。
4人は、劇薬の雫が身体に付着し、穴が開き鼻腔を通り呼吸がしにくくなっていた。
それだけではなく、別の劇薬で身体に震えもでていた。
「そろそろ出ますか?」
「あぁ。箱は燃えたんだ。こっちも燃やしていこう。」
メモ用紙の束を劇薬につける。
「なっ・・・何・・・を・・・。」
「ハァー・・・それでも研究・・・者です・・・か・・・。」
「やめ・・・て・・・。」
「との・・・う・・・うぅ・・・ハァ・・・戸ノ上部長!」
力を出す。
肺に空気が入りにくい.
嘆きに聞こえようが、手を止めることのない二人に細い声で伝えた。
この男達は、もう・・・もう研究者じゃない!
何もそこまで・・・っと思う事でも、こんなに恨まれるとは思わなかった。
そして、願いも虚しい気持ちだ。
きっと・・・きっと・・・。
頭が朦朧とし始めてきた4人。
心の中で思う事。
それは。
名声や利益に狂う鬼だ!
殺人者だ!
この信じがたい。
目の前の状況は現実。
どうなる?
それは・・・この状況では・・・誰かを呼ぶことさえできない。
今・・・。
4人は、目の前にいる二人に恐怖を感じる。
防具が溶け始めている。
雫で、ギャー!!っと叫ぶほど痛みが出る。
のたうち回ろうが、ニヤけて、これでも賞を譲る気はないかと言う。
子供達・・・。
エミュー・・・。
幸せな日々が脳裏に浮かび始めている。
ライターで、全部のメモ用紙やファイルのいらない紙に火をつける。
火種を端から燃やす。
一気に燃え始める。
4人はバタバタと痛みもあるが、何とか・・・何とか燃えさかる部屋から逃げ出したい!
全力でもがく。
その間に戸ノ上が、一つ目のドアを閉める。
そして。
完全に閉じる為に、二つ目の扉は、二人で室内から机を運んで内側から出られなくした。
さらに、扉に近くにあった。
細身のロープ、を二重にグルグル巻き付け硬く縛る。
簡単に取れないように、最後は駒結びではなく、登山で登る時の縛り方にする。
「ゴホッ!ゴホン!ゲフォ!・・・なお・・・き・・・。どこに・・・。」
「ゆっ・・・ゲフォ!ハァ・・・ハァ・・・ゆみ・・・こ・・・。」
「・・・ゴホッ!ゲフォ!・・・ハァー。いっ、・・・あや・・・の・・・。」
「・・・みっ・・みん・・・ゲフォゲフォ!ガハァ!・・・いっ・・・いる・・・わ・・・。」
4人は劇薬の煙を吸い。
内臓が、劇薬で損傷し始める。
火傷も負っている。
だが、それぞれ吐血してしまう。
この状況は死を意味する事。
このまま力尽きてしまうのか?
力を全員で、何とか出せないものか?
扉を開けるものを探す。
火が二つ目までに行く前に・・・。
ここで感染症の治療をしていた、100匹の動物達の悲鳴が耳に残るほど響き渡る。
すまない・・・。
ごめんなさい・・・。
火が動物達を燃やしていってる。
ジワリジワリと、こちらに近づいているのがわかる。
あれだけの劇薬なだけに火力も強い。
何とか一つ目のドアを開けたい。
ゆっくり・・・ゆっくり・・・。
息が荒々しくなっても、必死に立とうとする4人。
顔が熱い。
全身の皮膚も、内臓の損傷も、たぶん・・・50%近く異常が出ている事だろう。
戸ノ上に、鈴原に、何度も劇薬でかけられ、さらに火傷もしているので我慢も限界。
両方の痛みは、とてもとても激痛で、振り絞る力がやっと。
それでも家族の元にいかねばと思う4人。
戸ノ上達が持ち去ろうとしたものもないと・・・。
戸ノ上と鈴原が、学会の資料とエミューの貴重な細胞検体を血眼で探していた。
ないなぁ・・・。
どこだどこだ。
あっちこっちと探しまくり、床もメチャクチャにしているがお構いなし。
「こっちか?いや違うな。」
「こっちも違います。」
本棚の本も、ファイルも雑にゴミのように投げ捨てる。
本当の泥棒みたいだ。
それを何度も何度も繰り返す。
「どうだ鈴原。」
少し、遠くの場所の棚で探している鈴原に声を掛けた。
「これ、番号からして、2000年よりも、たぶん・・・なのですが・・・。後で書いて、保存しているんではないでしょうか?エミューの成長も書いていると思いますし・・・。どうですか?推測ですが・・・。」
「くそ!その推測でも、年代別に見ているではないか鈴原。見つからん!これも!これもだ!あーっ!違う!」
二人は全ての棚やデスク、さらにCDーRまでも荒らす。
これだけ探しまくっても、何処に原本の資料がある?
考えろ考えろ。
戸ノ上は、イライラが募っていた。
ん?
なんとなく、今探している棚の隣の棚に目を向けた。
右側の白い棚の上の段を探す。
今までは、下の段を一生懸命探していたのだが見つからなった。
上段前後に薄いファイルが並んでいる。
一か所だけ不自然に、太く付箋いっぱいのA3のファイルを、右側の奥の棚から引っ張り出した戸ノ上。
ファイルの表に、マル秘マークがついており。
学会書類Aー1(2023年)と書かれていた。
「おい!鈴原!おい!この黄色いファイルを確認をしてくれ!」
「はい。」
右後ろ隣で、棚の中を探している手を止める鈴原。
そして、戸ノ上の居る場所まで駆け寄る。
二人で、片方ずつ持ち、内容を眼を見開き、探し続けた顔の汗が流れている中、端から端までペラペラとめくり読んだ。
「なっ!なんだと!知らんぞ知らんぞ!」
首を振りながら驚きを隠せない。
鈴原は逆に笑顔で。
「戸ノ上部長、棚中を探してやっと見つけましたね。良かったじゃないですか!この黄色いファイル。彼らに渡してはなりません!」
「あぁ。そうだな。ムフフ。」
渡すものか。
少し二ヤっとし伝える。
「アメリカのハーバベル大学のメルト博士の最新情報も、この論文の中に書き、世界に発表しようと思っていると書いてますね。」
再度ファイルを掴んだ。
「許さん!」
戸ノ上は黄色いファイルを、鈴原から奪い、ぎゅっと両手を掌を真っ赤にしながら握る。
俺の前に、メルト博士まで密会していたなんて・・・。
しかも4人でだ。
いつの間に・・・。
口をへの字にしながら目を見開き、ブルブルと全身を震わせ怒りを表現していた。
資料は手に入れた。
同時に手に入れなきゃ発表できないもの。
そのもう一つが己の評価に絶対必要である。
とても貴重なエミユーの細胞検体だ。
戸ノ上と鈴原は、奥の危険物専門の部屋の扉を開け、散らかしたまま、手を洗い感染用防具服を着て入って行った。
危険物取扱室の扉の前。
「おい。鍵が開いている。」
俊也が由美子に言いました。
「えっ?嘘。」
そんなはずはない。
顔で表現する由美子。
自分達の思い違いか?
頭でよく思い出し。
「ちゃんと昨日閉めたはず。」
「俺も見ていた。」
ここは、普段は立ち入りを制限している場所。
自分達以外に誰がここに?
まさか!
「ねぇ、もしかして。」
「由美子、俺もお前と同じだ。それしか考えられないな。」
二人は顔を見合わせて、急いで一つ目のドア、二つ目のドアを開けた。
一つ目の部屋が、かなり散らかり、専門のPCは全部電源が入っていた。
「なっ!?」
「どっ、どういうこと?PCやファイルが散乱しているわ!」
「一体この状況はなんなんだ。」
やっぱり由美子は、どうも胸騒ぎがあるので。
「俊也、この状況を直樹達に来てもらいましょう。」
由美子は、携帯電話を左ポケットから取り出して、第二研究室に居る綾乃にかけた。
その頃。
「なぁ、綾乃。洋子も帰ったし機嫌治してくれよ。おーい。」
まだ怒っている綾乃。
仕方がないので、お気に入りの紅茶を入れてみようと、立ちあがった矢先に、綾乃の携帯電話が鳴り響く。
ルルルルル。
「はい。うん。え?そんな・・・。わかったわ。じゃ後で。」
綾乃は、携帯電話を切る。
そして直樹に向かって。
「直樹大変!由美子が・・・。」
コロンコロンコロン。
綾乃が、朝から飲んでたBOSSのコーヒーのペットボトルが、左手に当たり跳ねながら転がった。
一旦。
俊也と由美子は散乱した部屋を出て二人が来るのを待った。
「あんなに酷く荒らされていると、あのファイルを奪われているかもしれないな。」
ふぅー。
少し長めに息を吐いてストレスを取り除いた。
「本当にそうなら許せない。現場を直樹達に見せて、その先の危険物取扱室も調べましょ。」
「勿論、当たり前だろ。」
直樹と綾乃は、由美子から連絡をもらい地下まで必死に走った。
「由美子連絡ありがとう。」
「部屋が荒らされてるって本当か?」
ようやく二人と合流。
息を整えながら話した。
まさかと思う出来事があったと、由美子から聞いてはいたけど、俊也に直樹に問いかけた。
「直樹、こんな感じなんだ。」
二人は、部屋の扉を開けた瞬間、現状に酷く驚く。
!
これは・・・やはり・・・彼らなのか?
直樹は、思ってしまった。
綾乃も失われた資料がないか、PCを起動させ調べた。
「こっちもいい。こっちもいい。エミューの物だけないわ。」
綾乃は信じられないと思う顔をする。
「やはり。最近妙に、きつく当たると思ったが、彼らは俺達の動きが緩い時に盗もうとしていたんだ。確か、手段は選ばず世界一を取ると言ってたしな。」
困りながらも遺憾に直樹。
エミューの成長記録と新たな治療の成果の記録も、もう一つの黄色いファイルにあるからな。
「ねぇ、検体は調べた?」
綾乃は、俊也と由美子に聞いた。
しかし二人は、まだ調べていないと直樹と綾乃に向かって伝えた。
「まず4人で、ここを片付けよう。」
「それから防具服着て、中に入って調べよう。」
直樹と俊也は、綾乃と由美子に伝えながら、散らかし放題の物を片付け始めた。
すると。
綾乃が、直樹と俊也に。
「ここは私と由美子で片づけるから大丈夫。」
「そうね。検体まで奪われたら発表できないわ。」
・・・。
直樹と俊也は、綾乃と由美子に部屋の片づけを任せる事した。
そして、感染対策の防具服に着替えて中に入ることにした。
毎回防具服は、着るのも脱ぐのも大変だ。
「じゃ、頼む。」
「何かあったら緊急非常ボタン押すよ。」
中は、とても危険な薬品も多い為そう言った。
二人は、戸ノ上と鈴原が居る事を知らないまま第三の扉。
危険物取扱室の地下2に入って行った。
「部長!10種類の検体がここにあります。全てエミューの物です。隣には死んだ仲間たちの検体です。」
「おぉお!そっ、それだ!」
うんうん。
これも・・・これも・・・そうだ。
こっちは最近の検体だった。
15000万分の検体プレートが各部署ごとにある。
目的のエミューの両親のプレートがある場所まで行き。
エミューの名前を探す。
そして、鈴原がエミューのプレートを見つけた。
望むプレートを発見し戸ノ上は喜ぶ。
「さぁ、このまま持ち帰えるぞ。」
「はっ、はい!」
小さなプレートを大事にする為。
戸ノ上は、鈴原が用意した細長い桐の木箱に入れる。
「大事にしなければ。」
一言そう漏らし。
鈴原と一緒に出したプレートも片付けた。
さて、もうここには用はない。
帰ろうとした矢先。
!!
直樹と俊也が、防具服を着て部屋に入って鉢合わせになった。
「やはり、奪いに来たのですね。」
直樹は、戸ノ上の手に持ってる桐の木箱を見て言い放つ。
「その持っているのを、元の場所に返していただきたい。」
俊也も、桐の箱に指を指して返せと言い放った。
「んぁ!」
鈴原は、のけ反りながらビビる。
「お前達は、これがないと発表もできないよな。それに、この付箋がいっぱいの黄色のファイルも・・・。」
顔の横にファイルを掲げる。
「だから何ですか?」
「今この場所で返していただければ、盗もうとした、お二人の事を公にはしません。」
すると。
戸ノ上は、不気味な笑みを見せつつ笑う。
「フフフフ・・・返す?この・・・俺がか?」
「何がおかしいのです!返して下さい!」
もう一度、少し怒りながら直樹は伝えた。
しかし戸ノ上は、聴く耳はもたず。
二人の前で。
「これを返すことはしない!するわけないだろ!!」
戸ノ上は大声を出し、ドンッと身体ごとぶつかり進もうとした。
「まっ、待ってください!」
直樹は、戸ノ上の腰を必死に掴み振り払う。
戸ノ上はドアを掴み損ねる。
また這い上がりドアを掴む。
鈴原も、戸ノ上が部屋から脱出できるよう。
直樹達が戸ノ上の邪魔をするのを止めようとする。
「どけっ!邪魔をするな!」
「お前達やめろ!」
直樹も俊也も、戸ノ上や鈴原と揉み合いになってしまう。
だんだんと揉み合いから、本気の殴り合いになってしまう。
うっ!
ふぅう。
ドスン!
カランコロン。
パリンパリン。
「くっ・・・うぅ・・・。」
直樹は、初めて人を殴った。
戸ノ上から、強い拳を受け痛みを感じていた。
鈴原も、俊也と殴ったり揉み合ったりしつつも。
桐の箱とファイルも、見つけたのはこちらなので防御すると言う。
ふらつきながら片手ずつ交互に抱え、辺りにある物を投げたりしていた戸ノ上に。
「いい加減にして下さい!痛っ・・・。」
「物を投げないでください!」
何度も言いながら、投げ飛ばしたりしても、互いに殴り合っても桐の箱を奪う事できない。
どうすればいい。
互いに、奪いたい奪われたくもない。
そんな気持ちでいた。
15分位した頃。
綾乃と由美子は、中に入ってから出てこない二人を心配した。
「ねぇ。」
「んっ?」
声かけたのは綾乃。
それに反応する由美子。
「どうも長くない?」
綾乃は、床掃除から、テーブルの掃除をしながら由美子に話しかけた。
「そうねぇ・・・確かに。かれこれ15分位経っているかしら。」
由美子は、自分の左腕の腕時計の針を見た。
「ここ、もう片付けは大丈夫だし、見つかってないかもしれないから、中に入って一緒に探せば一石二鳥じゃない。」
どうする?
ここで待ってる?
そんな顔をする。
由美子は少し考え。
「うーん。4人で探す。確かに早いかも・・・。」
男どもが探し当ててないのなら、一緒に探してスッキリできたらと思った。
そうと決まれば、二人は専用ロッカーから防具服に着替えた。
よし!
OK!
「中に入りましょ。」
「そうしましょ。」
2の部屋のドアを開ける。
1つ目のドアを開けたら、2つ目のドア越しに物が割れたり罵声みたいのが聞こえた。
「なんか変じゃない?」
「えぇ。この声って・・・。」
急いで中に入る。
部屋内部で、2対2で大喧嘩をしていた。
「戸ノ上部長!!」
「直樹に俊也!!」
綾乃と由美子は口々に言いました。
部屋の惨状を見て。
一体何が起きているのか?
殴り合いしすぎて息が上がっている4人。
綾乃と由美子は、ようやく喧嘩した原因を理解する。
「あれ!」
「まさか!」
綾乃と由美子は、直樹達は戸ノ上の持ってる桐の箱を取り返そうとしていたと・・・。
その中に、エミューの検体が入っている。
二人は、戸ノ上と鈴原の手に持っている物を、力を入れて引っ張りながら奪おうとした。
しかし女の力では奪うことが出来ず。
力が強い二人に突き飛ばされてしまう。
っと同時に棚にぶつかり、右の棚にある大切な細胞の検体のプレートの箱やファイルが落ちる。
「綾乃!」
「由美子!」
それぞれの妻の元に駆け寄って行った直樹と俊也。
大きく突き飛ばされ全身を打ってしまう。
なかなか立ちあがることが出来ない。
痛みもあるが、それぞれゆっくり起き上がる。
まだ立ちあがることはできない。
座位の状態で、直樹は綾乃を、俊也は由美子の背中を支えていた。
「痛いじゃないか!邪魔するな!俺を誰だと思っているんだ!」
ただ物を返してもらう為にした事。
凄い剣幕で言い放った。
鈴原は、逃げるにはどうしたら?
それを戸ノ上に問いかけた。
「戸ノ上部長どういたします?これでは、4人を避けて持ち去りが出来ませんねぇ。」
綾乃と由美子も加わった為に、身動きが取れない戸ノ上と鈴原。
「邪魔?随分な言い方ですね。」
「俺・・・腹が立ちます!研究者としても人間としても・・・。そんなに・・・そんなに、その検体が欲しいのですか!」
「殴り合いまでして奪いたいのですか?常識的におかしいです!」
「どうして・・・ここまでされなきゃならないんです!」
直樹達は口々に言いました。
目の前にいるのは同じ研究員なのかと・・・。
本当に胸の中がザワザワしてしまう。
同時に怒りになってしまう。
すると戸ノ上が4人に言いました。
「このエミューの検体の中身は、全世界に評価され認知度が高まる。それは想定済みだ。俺はな・・・。40年も、賞を取る為に、どんな分野で賞が取れるか?悩み。そして決断し、必死に毎日毎日研究してきた。互いにライバル的存在だったが、いつしか、周囲の見る目が俺ではなくなっていき始めた。最近では、あの手術のせいで、もっともっと存在感が失われた。若き天才達?たまたま成功した手術。落選落選落選!どうして周囲は私は選ばない!動物の病変がある脳を、脳死判定した動物から、脳を一部切開し移植。人間でもしているだろう?医療機器で、半冷凍にした心臓を移植するという研究。お前達の会った博士達が、俺に対して疑心暗鬼の目をしていた。ふざけるな!確実に救えるか?その問いかけばかりだったさ。成功データが少ないと言いやがった。今回は、全世界が、エミューの治療の論文を聞きたいと言ってきた。彼等は、私達の研究以上をした。海外の各国に期間限定で、研究員になってもらう話が出てきていると言っていた。お前達に先越され、俺が,下僕のような気持ちになる生活を強いられるのは、死んでもまっぴらごめんだ!怒りに震えるわ!」
「密会は違反だ!図に乗るな!言葉巧みに、賞が取れるように言いくるめたんだろ!今なら許してもらえるぞ!電話でもメールでも今ここで辞退を伝えろ!絶対に後悔するぞ!」
今なら許す?
後悔?
言葉の先が読めない4人。
密会は違反?
ただ来日したので、私達でおもてなしをした。
怒り狂い癇癪を起すのは大人げないと思う。
確かに部長は落選。
内容は素晴らしい研究だと思っている。
データがないうちは評価されにくいのも当然だ。
私達のせいと言われるのは困惑してしまう。
エミューを研究している私達の評価はビックリするもの。
まさか、ここまでされるとは・・・泥棒をしてまでとは・・・。
「もう一度言います。こんな事をしていいと思ってるんですか?素晴らしい研究をしているのは分かります。しかし侮辱はやめてもらいたい。あの時、俺達も、救えるなんて思っていませんでした。エミュー以外は救えなかった。悲しみもありました。エミューは幸運の犬です。最終的に、センター長に辞退を申し出たのは、戸ノ上部長あなたです!」
直樹は、聞く耳持たなくても戸ノ上に強く言った。
「うっ・・・うるさい!だまれ!これは・・・これはお前達に絶対に渡さすもんかぁぁぁぁ!」
出入り口を開けて出て行こうとした。
「待ってください!」
「返してください!」
「私達の物です!」
「やめてください!」
二人の身体にしがみつく。
また振り払われる。
すると、戸ノ上は鈴原に何やら合図を送る。
コクリと首を縦に頷く。
無言で、鈴原は二ヤっとしていた。
そして。
「これを見ろ!」
鈴原が、ポケットからジッポライターを出した。
戸ノ上は、桐の箱を高々と天井に向けて上げる。
!!
「何をするんです!」
「やめて!」
「戸ノ上部長!鈴原主任!」
「ライターをしまってください!」
ボゥ!
桐の箱が、4人の前で燃え始めた。
大切な物が・・・。
実は、これは中身のない桐の箱。
自分の手が燃えないように、床に燃えている桐の箱を落とす戸ノ上。
4人は頭の部分を脱ぎ、ショックが隠しきれない。
呆然としてしまう。
その顔を見ながら。
「もう4人共消しますか?このまま、ここで消しましょう。上手くいきます!燃えるものがいっぱいな危険物が多いですから・・・。」
「フハハハ。いい案だな。これをかけて、劇薬で周囲を燃やす。ここで話したことも、原因の証拠もなくなる。そしたら、俺はお前達の代わりに全世界に評価される。フハハハ。いい案を考えた。くらえ!!」
この人達は何を言っているんだ?
そう思う4人。
隙ができ。
サッと護身用のスプレーを戸ノ上は、息苦しくなるほど4人にかける。
ゲホゲホ。
苦しい・・・。
眼が痛い・・・。
「子供達には悪いが、ここで高城達には息絶えてもらう。」
本気で私達を・・・。
息がしにくい。
鈴原が、劇薬を棚から取り出し戸ノ上に渡す。
「これをどうぞ。」
「おうおう。これか・・・そうだな。」
戸ノ上と鈴原は、毒液を吸わないように専用マスクをする。
ジョボジョボジョボ。
床にこぼしていく。
これは臭い!
一瞬で部屋に充満。
直ぐ頭の被り物を被る。
何故か、それを4人目がけてかけた。
防具服は分厚いもの。
だが、雫が付着すると焦げたように穴が開く。
戸ノ上も鈴原も、近くにある劇薬をまき散らす。
そして・・・。
4人は、劇薬の雫が身体に付着し、穴が開き鼻腔を通り呼吸がしにくくなっていた。
それだけではなく、別の劇薬で身体に震えもでていた。
「そろそろ出ますか?」
「あぁ。箱は燃えたんだ。こっちも燃やしていこう。」
メモ用紙の束を劇薬につける。
「なっ・・・何・・・を・・・。」
「ハァー・・・それでも研究・・・者です・・・か・・・。」
「やめ・・・て・・・。」
「との・・・う・・・うぅ・・・ハァ・・・戸ノ上部長!」
力を出す。
肺に空気が入りにくい.
嘆きに聞こえようが、手を止めることのない二人に細い声で伝えた。
この男達は、もう・・・もう研究者じゃない!
何もそこまで・・・っと思う事でも、こんなに恨まれるとは思わなかった。
そして、願いも虚しい気持ちだ。
きっと・・・きっと・・・。
頭が朦朧とし始めてきた4人。
心の中で思う事。
それは。
名声や利益に狂う鬼だ!
殺人者だ!
この信じがたい。
目の前の状況は現実。
どうなる?
それは・・・この状況では・・・誰かを呼ぶことさえできない。
今・・・。
4人は、目の前にいる二人に恐怖を感じる。
防具が溶け始めている。
雫で、ギャー!!っと叫ぶほど痛みが出る。
のたうち回ろうが、ニヤけて、これでも賞を譲る気はないかと言う。
子供達・・・。
エミュー・・・。
幸せな日々が脳裏に浮かび始めている。
ライターで、全部のメモ用紙やファイルのいらない紙に火をつける。
火種を端から燃やす。
一気に燃え始める。
4人はバタバタと痛みもあるが、何とか・・・何とか燃えさかる部屋から逃げ出したい!
全力でもがく。
その間に戸ノ上が、一つ目のドアを閉める。
そして。
完全に閉じる為に、二つ目の扉は、二人で室内から机を運んで内側から出られなくした。
さらに、扉に近くにあった。
細身のロープ、を二重にグルグル巻き付け硬く縛る。
簡単に取れないように、最後は駒結びではなく、登山で登る時の縛り方にする。
「ゴホッ!ゴホン!ゲフォ!・・・なお・・・き・・・。どこに・・・。」
「ゆっ・・・ゲフォ!ハァ・・・ハァ・・・ゆみ・・・こ・・・。」
「・・・ゴホッ!ゲフォ!・・・ハァー。いっ、・・・あや・・・の・・・。」
「・・・みっ・・みん・・・ゲフォゲフォ!ガハァ!・・・いっ・・・いる・・・わ・・・。」
4人は劇薬の煙を吸い。
内臓が、劇薬で損傷し始める。
火傷も負っている。
だが、それぞれ吐血してしまう。
この状況は死を意味する事。
このまま力尽きてしまうのか?
力を全員で、何とか出せないものか?
扉を開けるものを探す。
火が二つ目までに行く前に・・・。
ここで感染症の治療をしていた、100匹の動物達の悲鳴が耳に残るほど響き渡る。
すまない・・・。
ごめんなさい・・・。
火が動物達を燃やしていってる。
ジワリジワリと、こちらに近づいているのがわかる。
あれだけの劇薬なだけに火力も強い。
何とか一つ目のドアを開けたい。
ゆっくり・・・ゆっくり・・・。
息が荒々しくなっても、必死に立とうとする4人。
顔が熱い。
全身の皮膚も、内臓の損傷も、たぶん・・・50%近く異常が出ている事だろう。
戸ノ上に、鈴原に、何度も劇薬でかけられ、さらに火傷もしているので我慢も限界。
両方の痛みは、とてもとても激痛で、振り絞る力がやっと。
それでも家族の元にいかねばと思う4人。
戸ノ上達が持ち去ろうとしたものもないと・・・。
