駆けだした路上で、彼女の姿を探す。

窓からながめていたはずの光景がもどかしい。

たちこめる朝靄が、視界を遮る。

名前を叫ぼうとして、激しく咳き込んだ。

息が苦しいのは、今に始まったことじゃない。

この橋の向こうに、彼女がいるはずだ。

俺はもう一度顔を上げ、立ち上がった。

白いワンピースに、青のストライプ。

今でも覚えている。

俺は何度も何度も、桜の花びらを見上げる彼女の姿を思い起こしたんだ。

触れようと手を伸ばした瞬間、彼女はふり向いた。

抱きしめる腕の中で、折れそうなほど力を込める。

泣いているのは、俺の方だった。

「出てきちゃダメじゃない」

彼女の声がそう耳元でささやくのが、奇跡のように感じた。

「行こう」

「どこへ?」

「どっか。世界に二人だけの場所」

頬にかかる髪をかき分ける。

俺は彼女にキスをして手をつなぐと、歩き始めた。



【完】